①市場を絞るのが怖い社長へ(STEP1)


―「捨てる」のではなく、「守る」ための市場選定―

「市場を絞りましょう」

この一言を聞いた瞬間、
多くの社長の頭の中には、同じ映像が浮かびます。

  • 売上が減るのではないか
  • 既存のお客さんを失うのではないか
  • 仕事が来なくなったらどうしよう

そして、こう思うのです。

「分かっているけど、怖い」

この感覚は、間違いでも弱さでもありません。
むしろ、真剣に会社を守ろうとしている社長ほど、
この恐怖を強く感じます。

今回は、事業構造転換で必ず立ち止まるこのテーマ、
「市場を絞るのが怖い」という社長の本音に、
正面から向き合っていきます。

なぜ「市場を絞る」と聞くだけで、心がザワつくのか

まず整理しておきたいのは、
社長が怖がっている“正体”です。

多くの場合、恐れているのは、

  • 市場を絞ること
    ではなく
  • 今ある売上が失われること

です。

つまりこれは、
未来への挑戦への恐怖ではなく、
現在を失う不安なのです。

社長にとって今の売上は、

  • 従業員の生活
  • 家族の安心
  • 自分の責任

すべてを背負った数字です。

簡単に「減らしていい」とは思えなくて当然です。

「市場を絞る=捨てる」という誤解

ここで、非常に大きな誤解があります。

それは、

市場を絞る=顧客を切り捨てる

というイメージです。

ですが、実際の市場選定は、
もっと現実的で、もっと静かな作業です。

  • 断る顧客を決める
    のではなく
  • 力を入れる顧客を決める

この違いは、思っている以上に大きい。

ケース① 何でも屋で疲弊していた社長の話

あるサービス業の社長は、こう言っていました。

「うちは、何でもやります。
 頼まれたら断れない性格なんで」

実際、売上はそこそこありました。
でも、

  • 利益は残らない
  • 社長は常に現場
  • 仕事は増えるが楽にならない

典型的な“頑張っているのに苦しい会社”です。

この社長に「市場を絞りましょう」と伝えると、
返ってきた言葉はこうでした。

「いや、それは怖いです。
 今の売上を捨てる余裕はありません」

そこでやったのは、
市場を切ることではありません。

  • 利益が出ている顧客
  • 社長が説明しなくても進む仕事
  • リピート率が高い案件

これを「主戦場」として定義しただけでした。

結果どうなったか。

  • 仕事量はほぼ同じ
  • 社長の稼働は減少
  • 利益率は上昇

市場を絞ったのに、
会社はむしろ安定したのです。

市場を絞る本当の目的は「戦える場所」を決めること

市場選定の目的は、
売上を減らすことでも、効率化でもありません。

「勝てる場所で戦う」ためです。

どんな会社にも、

  • 勝ちやすい市場
  • 勝ちにくい市場

があります。

問題は、多くの会社が、

全部の市場で、同じ熱量で戦おうとしていること。

これでは、体力がいくらあっても足りません

「全部やる会社」が一番不利になる理由

市場を絞らない会社は、一見強そうに見えます。

  • 仕事の幅が広い
  • 断らない
  • 柔軟

でも実際には、こんな構造になります。

  • 説明コストが高い
  • 業務が標準化しない
  • 人が育たない
  • 社長が判断し続ける

結果、
規模が大きくなるほど、苦しくなる。

これは能力の問題ではなく、
構造の問題です。

社長が本当に怖いのは「選択の責任」

もう一段深く掘ります。

市場を絞るとき、
社長が本当に怖いのは、これです。

「自分で選んだ結果、失敗したらどうしよう」

全部やっていれば、
うまくいかなくても言い訳ができます。

  • 市場が悪かった
  • 景気が悪かった
  • たまたまだ

でも、絞った瞬間、
結果はすべて「自分の判断」になる

この重さが、社長を止めます

ケース② 「決めなかった」ことで失ったもの

別の会社では、
市場選定を先送りし続けました。

  • 今は忙しい
  • もう少し様子を見る
  • 来期考えよう

その結果、

  • 社長の判断業務は増え続け
  • 若手は育たず
  • 社長自身が疲弊

最終的に起きたのは、

「選ばなかったことによる、自然な衰退」

市場は、選ばなくても、
勝手に狭まっていきます。

ただし、
そのとき主導権は、社長にはありません。

市場を絞るとは「未来の自分を助ける行為」

ここで、視点を変えてみてください。

市場を絞るとは、

  • 今日の売上を切ること
    ではなく
  • 未来の社長の時間と判断力を守ること

です。

  • 説明しなくていい仕事
  • 任せられる業務
  • 数字で管理できる構造

これを作るための、最初の一歩が市場選定です。

絞るときにやってはいけない3つのこと

最後に、注意点も押さえておきましょう。

① 感覚だけで決める

「好き」「得意」だけでは不十分。
数字と現実を必ず見る。

② 一気に全部切ろうとする

段階的でOK。
「今はここに力を入れる」で十分。

③ 社内に説明しない

なぜ絞るのか。
これを共有しないと、現場が混乱します。

市場選定は「勇気」ではなく「設計」

市場を絞る社長は、
勇気があるわけではありません。

構造を理解しているだけです。

  • どこで勝てるか
  • どこで消耗するか

これを冷静に見極めただけ

怖さがゼロになることは、ありません。
でも、怖いまま進めるのが社長の仕事です。

今日の一言

市場を絞るのは、捨てるためではない。
社長と会社を、長く生き残らせるための選択だ。

次回は、
「選ばれる理由が分からない社長へ(STEP2)」
に進みます。


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