③数字をたくさん見るほど、社長は判断できなくなる


― 「全部見ているのに、なぜか決められない」の正体 ―

数字は見ている。なのに、決められない

「数字は、ちゃんと見ているんです」

これは、多くの社長が口にする言葉です。
売上表も見ている。
試算表も確認している。
場合によっては、KPIの一覧表まで揃っている。

それなのに、実際の経営判断では、こんな声が聞こえてきます。

  • 「数字は悪くないはずなんだけど…」
  • 「もう少し様子を見ようか」
  • 「感覚的には、今じゃない気がする」

もしあなたが、
「数字を見ているのに、判断に迷う」
状態にあるとしたら、それは異常でも失敗でもありません。

むしろ、
👉 “数字を見すぎている”可能性
があります。

社長が判断できなくなる瞬間

少し想像してみてください。

あなたの目の前に、こんな資料が並んでいます。

  • 月別売上推移
  • 商品別売上
  • 原価率
  • 人件費
  • 広告費
  • 来店数
  • 客単価
  • リピート率

数字としては、とても立派です。
でも、いざ「次に何をするか」を決めようとすると、手が止まる。

なぜか。

それは、
数字が“判断材料”ではなく、“情報の山”になっているからです。

数字は「多いほど良い」という思い込み

多くの社長が、無意識にこんな思い込みを持っています。

数字は、たくさん見ておいた方が安心
何かあったとき、説明できる
見ていないより、見ている方が正しい判断ができる

気持ちは、よく分かります。

でも実はこれ、
判断という行為においては逆効果になることが多いのです。

なぜなら、人は、

  • 見る数字が増えるほど
  • 比較軸が増え
  • 重要度の判断が難しくなる

からです。

判断とは「選ぶこと」ではなく「捨てること」

ここで、とても大事な話をします。

経営判断とは、
「最適な答えを選ぶこと」ではありません。

本質は、

今は見ない数字を決めること

です。

数字を全部見てから判断しようとすると、
判断は永遠に終わりません。

なぜなら、
数字は必ず「矛盾したサイン」を出すからです。

  • 売上は伸びているが、利益率は下がっている
  • 客数は減っているが、客単価は上がっている
  • 今月は好調だが、前年同月比では微妙

全部を同時に満たす判断など、存在しません。

ケーススタディ|C社長の「数字迷子」状態

ここで、よくあるケースをご紹介します。

従業員20名ほどのC社長。
管理資料は非常に充実していました。

  • 月次の損益計算書
  • 部門別の数字
  • KPI一覧
  • 週次レポート

ただし、本人はこう言います。

「資料は揃っているんですけど、
どれを見て判断すればいいのか、分からなくて…」

実際、意思決定はこうなっていました。

  • 新しい施策をやるか迷う
  • 判断が遅れる
  • 結局、前年踏襲

原因は明確でした。

👉 「社長として見る数字」が決まっていなかった
のです。

「見る数字」と「管理する数字」は違う

ここで、決定的に重要な考え方をお伝えします。

数字には、2種類あります。

① 社長が「見る」数字

  • 判断のために見る
  • OK/NGを決めるために見る
  • 迷ったときに立ち戻る数字

これは、ごく少数でいい

② 現場が「管理する」数字

  • 日々改善するための数字
  • 詳細な分析用
  • 原因追及のための数字

こちらは、多くて構いません

多くの会社では、この2つがごちゃ混ぜになっています。

結果として、
社長が「管理用の数字」に埋もれ、
判断できなくなるのです。

社長が見るべき数字は、意外と少ない

では、社長は何個くらいの数字を見ればいいのか。

これは業種や規模にもよりますが、
原則として、

3〜5個程度

で十分です。

例えば、

  • 売上
  • 利益(または粗利)
  • キャッシュに関わる指標
  • 最重要KPI

これくらいでいい。

大事なのは、
なぜその数字を見るのか」を説明できることです。

「なんとなく見ている数字」は、
判断を鈍らせるだけです。

「全部見ないと不安」は、優秀な社長の証拠

ここで、少し社長を擁護しておきます。

数字をたくさん見ている社長ほど、

  • 勉強熱心
  • 真面目
  • 責任感が強い

だからこそ、
「見落としがあったら怖い」
「判断ミスをしたくない」
と思い、数字を集めます。

でも皮肉なことに、
見れば見るほど、判断が遅くなる

これは能力の問題ではなく、
構造の問題です。

数字を「減らす」のは、勇気がいる

ここで、多くの社長が立ち止まります。

「本当に、そんなに減らして大丈夫なのか?」
「何か見落とさないか?」

結論から言うと、
減らさない限り、判断は変わりません。

大切なのは、

  • すべてを把握すること
    ではなく
  • 判断を早く、再現できること

だからです。

数字を減らすとは、
サボることではありません。

“社長の視点を固定する”こと

なのです。

「見る数字を絞る」は、立派な意思決定

前回の記事でお伝えしたように、
社長の最初の仕事は、

  • 決めることを決める

でした。

今回のテーマは、その次の段階。

見る数字を決める

これも、立派な意思決定です。

しかも一度決めてしまえば、

  • 毎回悩まない
  • 判断がブレない
  • 周囲も迷わない

という効果があります。

次回予告

判断基準がない会社では、正解が毎回変わる
― 「数字で基準を固定する」という次の一手 ―

今日の一言

社長が判断できなくなるのは、
数字が足りないからではない。
“見る数字”が決まっていないからだ。


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