
「任せたいのに、任せきれない」社長の本音
「もっと任せたほうがいいのは分かっている」
「でも、どこまで任せていいのかが分からない」
これは、多くの社長が口にする本音です。
実際のところ、
社長が判断を抱え込んでしまう理由は、とても真っ当です。
- 失敗したときに責任を取るのは自分
- 会社の将来に直結する判断が多い
- 現場判断がズレたときの修正コストが大きい
だからこそ、
「手放したい」と「手放せない」の間で揺れ続けることになります。
では、どうすればいいのか。
答えはシンプルで、
「判断を任せる/任せない」を感覚で決めないことです。
今回のテーマは、
判断を“安心して”手放すための、ラインの引き方。
前回整理した
「社長が必ず決める3つの判断」を前提に、
今回はさらに一歩踏み込みます。
判断を手放す前に、絶対にやってはいけない勘違い
まず最初に、
判断委譲でよくある勘違いを整理しておきましょう。
それは、
任せる=全部自由にしていい
という誤解です。
これは、
社長にとっても、現場にとっても不幸な状態を生みます。
よくある失敗パターン
- 「好きにやっていいよ」と言われたが、基準が分からない
- 判断したら、後からダメ出しされる
- 結局、社長の顔色をうかがうようになる
こうして現場は萎縮し、
社長は「やっぱり自分がやるしかない」と戻ってしまいます。
大切なのは、
自由を与えることではなく、境界線を渡すことです。
「任せていい判断」と「絶対に残す判断」は、こうして分ける
判断を手放してはいけないラインは、
次の3つの視点で引くことができます。
- 会社の前提条件が変わるかどうか
- 取り返しがつくかどうか
- 判断基準が言語化されているかどうか
順に見ていきましょう。
ライン①|その判断で「会社の前提」が変わるか?
まず1つ目は、
その判断が、会社の前提条件を変えてしまうかどうかです。
ここで言う前提条件とは、
- 誰を顧客とするか
- どんな価値を提供する会社なのか
- どこで勝負するのか
といった、会社の土台です。
これが変わる判断は、
基本的に社長が手放してはいけません。
ケーススタディ:営業判断が、会社の軸を壊した例
ある会社では、
営業担当に「受注判断」を任せていました。
すると、
- 値引き前提の案件が増える
- 短期的な売上は上がる
- しかし利益率が急落
という状態に。
営業担当としては「数字を達成するため」の合理的判断。
しかし会社としては、
「何で稼ぐ会社なのか」という前提が崩れていたのです。
前提を動かす判断は、
社長が握るべき最重要ラインです。
ライン②|失敗したとき、取り返しがつくか?
2つ目の視点は、
その判断が失敗したとき、やり直せるかどうかです。
- 修正できる
- 学習に変えられる
- ダメージが限定的
この条件がそろう判断は、
比較的任せやすい判断です。
逆に、
- 信用を失う
- 大きな資金が一気に失われる
- 法的・契約的なリスクがある
こうした判断は、
社長が最終ラインに立つべきです。
ケーススタディ:小さな判断ミスが、大きな損失に
ある小規模企業で、
現場判断で設備投資を進めたケース。
当初は「業務効率化」のつもりでしたが、
- 実際の業務と合わない
- 使われない設備が残る
- 回収不能
結果として、
数年にわたって資金繰りを圧迫しました。
「金額が大きいからNG」ではなく、
「戻れない判断かどうか」
ここがラインになります。
ライン③|判断基準は、言葉になっているか?
3つ目は、
その判断の基準が、言語化されているかどうかです。
基準が言葉になっていない判断は、
絶対に手放してはいけません。
なぜなら、
それは「社長の感覚」でしか判断できないからです。
感覚判断を任せると、何が起きるか
- 人によって判断がブレる
- 結果論で叱られる
- 誰も判断したがらなくなる
こうなると、
組織は完全にストップします。
逆に言えば、
基準が言葉になった瞬間、その判断は任せられる候補になる
ということです。
「任せてOK」の判断が増える、思考の切り替え
ここで大事な考え方があります。
それは、
「今は任せられない判断」=「永遠に任せられない判断」ではない
ということ。
多くの社長は、
- 任せられない
- だから自分でやる
- 忙しい
というループに入ります。
しかし、本来やるべきなのは、
- 任せられない理由を特定する
- 判断基準を言語化する
- 小さく任せてみる
このプロセスです。
判断ラインは、
固定するものではなく、育てていくものなのです。
実践ワーク|あなたの「手放せないライン」を可視化する
ここで、今回のワークです。
次の3つの質問に、
できるだけ具体的に答えてみてください。
- その判断で、会社の前提が変わるものは何か?
- 失敗したら、取り返しがつかない判断は何か?
- まだ言葉にできていない判断基準は何か?
書き出してみると、
- 自分が抱え込んでいる理由
- 実は任せられる判断
- 仕組みにすべき判断
が、はっきり見えてきます。
「社長がいなくても回る会社」の正体
ここまで読んで、
こう感じた方もいるかもしれません。
「結局、社長の仕事は減らないのでは?」
確かに最初は減りません。
むしろ、一時的に増えます。
なぜなら、
- 判断基準を言葉にする
- ラインを引き直す
- 任せ方を設計する
という作業が必要だからです。
しかし、この作業をやり切った先にあるのが、
「判断が社長の頭ではなく、会社に残る状態」です。
これが、
社長がいなくても回る会社の正体です。
今日の一言
判断は、勇気で手放すものではない。
構造で、安心して手放すものだ。
このラインが引けたとき、
社長はようやく「考える仕事」に集中できるようになります。
