②数字は見ているのに、なぜ判断できないのか


― 数字が“ある”会社と、数字が“使われている”会社の決定的な違い ―

「数字はちゃんと見ているんですけどね…」

経営者の方と話していると、非常によく聞く言葉があります。

「試算表は毎月見ています」
「売上も利益も把握しています」
「数字は一応、頭に入っているつもりです」

それでも、こんな悩みが同時に出てきます。

  • 判断に迷う
  • 決断に自信が持てない
  • 後から「本当にこれで良かったのか?」と不安になる

数字はある。
見てもいる。

それなのに、なぜ判断できないのか。

今回は、この“よくあるのに正体が分かりにくい違和感”を、丁寧に解きほぐしていきます。

数字が見られている会社ほど、判断が遅くなる不思議

まず前提として、
「数字を見ていない会社」より
「数字を見ている会社」の方が、健全です。

にもかかわらず、現実にはこういう現象が起きます。

数字を見始めた途端、判断が重くなる

これは珍しい話ではありません。

  • 前より慎重になりすぎる
  • あれもこれも気になって決められない
  • 「もう少し様子を見よう」が増える

一体、何が起きているのでしょうか。

ケース①:試算表を見てフリーズする社長

あるサービス業の社長は、
毎月、税理士から送られてくる試算表を真面目に見ていました。

売上
粗利
人件費
利益

すべて把握している。

それでも、こんな状態でした。

  • 値上げをするべきか迷う
  • 人を増やす判断ができない
  • 投資に踏み切れない

本人曰く、

数字を見れば見るほど、怖くなる

これは決して珍しい話ではありません。

問題は「数字の量」ではない

多くの人が、ここで勘違いをします。

「数字が足りないから判断できないんだ」
「もっと細かく分析しないといけない」

しかし、現実は逆です。

判断できない会社ほど、数字が多い。

  • 月次試算表
  • 前年比
  • 前月比
  • 部門別
  • 科目別

情報は揃っている。

それでも判断できない理由は、
数字が“判断に変換されていない”からです。

数字は「情報」であって「答え」ではない

ここが、とても重要なポイントです。

数字そのものは、
ただの結果の記録です。

  • 売上がいくら
  • 利益がいくら
  • コストがいくら

それ自体は、
「良い」「悪い」を語ってくれません。

判断するためには、必ずこれが必要になります。

基準

基準がないと、数字はただの感想大会になる

基準がない状態で数字を見ると、どうなるか。

  • 「思ったより少ない気がする」
  • 「まあ、こんなもんか」
  • 「悪くはないけど、良くもない」

これらはすべて、感想です。

感想がいくら増えても、
判断にはつながりません。

ケース②:売上1,000万円は多いのか、少ないのか?

例えば、月商1,000万円。

これを聞いて、どう感じるでしょうか。

  • すごい
  • 普通
  • 少ない

答えは、会社によって全部違う

  • 利益率が10%なら
  • 人数が何人で
  • 将来どこを目指しているか

によって、評価は真逆になります。

つまり、

数字は、単体では判断できない

ということです。

「比較」だけでは判断は生まれない

次によくあるのが、比較依存です。

  • 前年比
  • 前月比
  • 予算比

もちろん、これらは重要です。

ただし、比較だけをしていると、
こんな状態に陥ります。

  • 増えたからOK?
  • 減ったからNG?

増えていても、
「それでいいのか」は別問題。

減っていても、
「許容範囲なのか」は別問題。

ここでも必要なのは、やはり基準です。

判断できる会社は「問い」が決まっている

判断できる会社は、
数字を見る前に、問いが決まっています。

例えば、

  • この数字は、何を確認するためのものか
  • どのラインを超えたら、動くのか
  • 超えなかったら、どうするのか

問いがあるから、
数字が“意味”を持ちます。

ケース③:数字が「信号」になっている会社

ある小売業では、
毎月見る数字はごくわずかでした。

  • 売上
  • 粗利率
  • 在庫回転

そして、それぞれにルールがありました。

  • 粗利率が○%を下回ったら価格を見直す
  • 在庫回転が落ちたら仕入れを止める

数字は、
判断を促す信号として使われていたのです。

だから、迷わない。

数字が怖くなる正体

数字を見るのが怖くなる理由は、
数字そのものではありません。

  • 見た後、どうすればいいか分からない
  • 間違った判断をしたくない
  • 正解が分からない

つまり、

判断の責任を数字に押し付けようとしている

状態です。

数字は責任を取ってくれません。
取るのは、常に社長です。

数字は「免罪符」にも「武器」にもなる

数字を、

  • 「だから仕方ない」
  • 「数字が悪いから無理」

という免罪符に使う会社は、
判断が止まります。

一方で、

  • 「だから、こうする」
  • 「ここまでは許す」

という武器に使う会社は、
判断が加速します。

違いを生むのは、
基準と覚悟です。

判断できないのは、社長の能力不足ではない

ここまで読んで、

「自分は数字に弱いのかな…」

と思った方もいるかもしれません。

でも、それは違います。

判断できない理由は、

数字の使い方が設計されていないだけ

です。

これは、才能の問題ではなく、
構造の問題です。

次回予告:判断を助ける「基準」の正体

次回は、

  • 何を基準にOK/NGを決めるのか
  • その基準はどう作るのか

について、さらに踏み込んでいきます。

数字が判断できない状態から、
数字で迷わなくなる状態へ。

その境目を、一緒に見ていきましょう。

今日の一言

数字は答えを出してくれない。
答えを出すための“基準”があって、
初めて武器になる。

数字を見る時間を、
判断できない時間にしないために。


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