
―― 仕訳は“暗記科目”ではなく、“結果を生む装置”だった
「仕訳は分からないけど、もう一歩だけ理解したい」
第4回では、
- P/Lは「期間の結果」
- B/Sは「今の状態」
- 仕訳は「その2つを同時に動かす翻訳機」
という整理をしました。
すると、多くの社長が
こんな気持ちになります。
「仕訳を全部覚える気はない」
「でも、まったく分からないのも不安」
「最低限、何が起きているかは知りたい」
その感覚は、とても健全です。
今回は、
社長が“これだけ分かっていれば十分”という仕訳
だけに絞ってお話しします。
なぜ「全部の仕訳」を覚える必要がないのか
まず、はっきり言います。
社長は、仕訳を網羅的に覚える必要はありません。
理由はシンプルです。
仕訳の種類は、経営判断に対して多すぎる
実務上の仕訳には、
- 細かい税区分
- 特殊な例外処理
- 決算調整用の仕訳
などが大量にあります。
これらは、
- 税務署向け
- 会計基準向け
- 専門家向け
の世界です。
社長の判断には、ほとんど関係ありません。
社長に必要なのは「よく起きる原因」だけ
仕訳を細かく見ると、
実はあることに気づきます。
形は違っても、
起きていることはいつも似ている
ということです。
スモールビジネスの現場で起きる出来事は、
ほぼ次の5つに集約できます。
社長が最低限知っておくべき5つの仕訳パターン
ここからは、
借方・貸方という言葉を一切使いません。
「何が起きて、
P/LとB/Sがどう動くか」
だけを見ていきましょう。
① 売上が立つ|「儲けは、先に生まれる」
何が起きている?
- 商品・サービスを提供した
- 請求する権利が生まれた
- まだ入金はされていないかもしれない
P/Lではどうなる?
- 売上が増える
- 利益が増える可能性が生まれる
B/Sではどうなる?
- 「もらえるはずのお金」が増える
- まだ現金ではない
社長が見るべきポイント
「売上は立っているが、
お金はまだ入っていない状態があるか?」
ここを意識できるだけで、
「黒字なのに苦しい」の正体が見えてきます。
② 入金される|「お金は、後から追いかけてくる」
何が起きている?
- 以前に売った分のお金が入ってきた
- 新しい売上ではない
P/Lではどうなる?
- 何も起きない
- 利益は増えない
B/Sではどうなる?
- 現金・預金が増える
- 「もらえるはずのお金」が減る
よくある勘違い
「今月、入金が多かったから儲かった」
これは、完全な錯覚です。
入金=過去の成果の回収
だと分かれば、冷静になれます。
③ 経費を払う|「お金と利益は、同時に減るとは限らない」
何が起きている?
- 事業のための支出をした
- 文房具、家賃、広告費など
P/Lではどうなる?
- 経費が増える
- 利益が減る
B/Sではどうなる?
- 現金・預金が減る
- または「後で払う約束」が増える
社長が意識すべき視点
「これは、今月の判断に必要な支出か?」
この問いを持てると、
経費が“流れ作業”ではなくなります。
④ 原価・外注を使う|「売上とセットで考える支出」
ここは、
多くの社長が曖昧になりやすい部分です。
何が起きている?
- 商品を仕入れた
- 外注を使って仕事をした
P/Lではどうなる?
- 売上に直接対応するコストが増える
- 粗利に影響する
B/Sではどうなる?
- まだ使っていなければ「在庫」や「未処理」
- 使った分だけ、結果がP/Lに出る
社長が見るべき数字
売上 − 原価 = 粗利
ここが崩れ始めたら、
経営は一気に苦しくなります。
⑤ 借入・返済をする|「返しても、利益は減らない」
何が起きている?
- お金を借りた
- 借りたお金を返した
借りたとき
- P/L:何も起きない
- B/S:現金が増え、借金も増える
返したとき
- P/L:何も起きない
- B/S:現金が減り、借金も減る
多くの社長の誤解
「返済がキツい=赤字」
これは違います。
返済は、過去に借りたお金の整理
利益とは別軸の話です。
5つを並べると、仕訳の正体が見えてくる
ここまでを整理すると、
- 売上・経費・原価 → P/Lを動かす
- 入金・借入・返済 → B/Sを動かす
- 仕訳 → その動きを同時に記録する仕組み
という構造が見えてきます。
仕訳は、
敵でも、試験問題でもありません。
ただの、
裏側の仕組みです。
事例|仕訳を「怖がらなくなった」社長の変化
ある社長は、
以前こう言っていました。
「仕訳って聞くだけで頭が拒否反応を起こす」
でも、この5パターンだけを整理した後、
こう言いました。
「ああ、起きてることは単純ですね」
「名前が難しかっただけですね」
その後、
- P/Lを見る頻度が増え
- B/Sへの抵抗も減り
- 税理士との会話もスムーズになりました
次回予告|簿記との“正しい距離感”を完成させる
次回はいよいよ最終回です。
「数字が苦手な社長でも“利益が残る会社”になるための簿記との付き合い方」
- 社長がやるべきこと
- やらなくていいこと
- 簿記を経営の味方にする考え方
を総まとめします。
今日の一言
「仕訳は覚えるものではない。
起きている現実を、数字に変える“裏側の装置”である。」
