
――数字の前に、社長の軸を作る・第3回――
「それ、理念っぽく言ってみただけですよね?」
理念の話をしていると、社長からこんな反応が返ってくることがあります。
「理念って、結局きれいな言葉を並べるだけでしょ?」
「うちは現場が忙しいから、そんな余裕はない」
「正直、額縁に入れて飾るイメージしかない」
……とても正直な感想だと思います。
実際、世の中には
“聞こえはいいけど、使われていない理念”
があふれています。
だからこそ、今回ははっきり言います。
理念は、きれいである必要はありません。
理念の正体は、「判断基準」です。
この回では、「使える理念」と「使われない理念」の違いを、できるだけ具体的にお話ししていきます。
理念が「きれいな言葉」で終わってしまう理由
まず、なぜ理念が“お飾り”になりやすいのか。
それは多くの場合、理念がこんな形で作られているからです。
- 抽象的すぎる
- どの会社にも当てはまる
- 行動に落とし込めない
たとえば、
「お客様第一主義」
「地域社会に貢献する」
「社員の幸せを追求する」
どれも間違っていません。
でも、こう聞き返したくなります。
- 具体的に、どんな場面で?
- 迷ったとき、どう判断すればいい?
- 利益と衝突したら、どっちを取る?
判断に使えない理念は、読まれなくなります。
判断基準としての理念とは?
では、「判断基準としての理念」とは何でしょうか。
一言で言えば、
迷ったときに、答えを出すためのもの
です。
- やるか、やらないか
- 攻めるか、守るか
- 短期か、長期か
経営には、正解がない選択ばかり出てきます。
理念は、そのたびに社長の代わりにこう言ってくれます。
「この会社なら、こっちを選ぶよね」
これができて初めて、理念は“生きた言葉”になります。
ケース①:利益率の低い仕事を、なぜ断れなかったのか
ある製造業の社長の話です。
長年付き合いのある取引先から、
利益率がかなり低い仕事の依頼がありました。
- 断れば、売上は下がる
- 受ければ、現場は疲弊する
- 利益はほとんど残らない
社内でも意見が割れました。
- 営業:「関係性を考えると断れない」
- 現場:「正直、もう限界」
- 経理:「数字的には厳しい」
社長は悩み続け、結局こう言いました。
「今回は、気持ちで受けよう」
結果、現場はさらに疲れ、
「またか…」という空気が広がりました。
後から理念を整理したところ、その会社の本音はこうでした。
「うちは、無理をしてまで売上を追う会社じゃない」
もしこれが理念として言語化されていたら、
判断はもっと早く、納得感のあるものになっていたはずです。
理念は「社長の癖」を言葉にしたもの
理念というと、立派なものを作らなきゃ、と思いがちですが、
実はもっとシンプルでいいのです。
理念の正体は、
「社長が、無意識に大事にしている判断の癖」
- 多少利益が減っても、信頼を優先する
- スピードよりも、丁寧さを取る
- 短期より、長期を選びがち
これらを、ちゃんと言葉にしただけでいい。
社長の中には、すでに“基準”はあります。
それが言語化されていないだけなのです。
ケース②:採用でブレ続けていた会社
別の会社では、採用がうまくいっていませんでした。
- 技術はあるけど、合わない人
- 人柄はいいけど、成長しない人
社長は毎回こう言います。
「悪い人じゃないんだけどね…」
そこで理念を整理したところ、見えてきたのはこの一文。
「うちは、多少不器用でも、誠実さを一番大事にする会社」
この一文ができてから、採用基準が変わりました。
- 面接で見るポイントが明確に
- 現場も判断しやすくなる
- 入社後のミスマッチが激減
理念は、人事制度より先に必要だったのです。
「判断基準」になる理念の3つの条件
では、判断に使える理念には、どんな条件があるのでしょうか。
① 二択で迷ったときに使える
「どっちも良さそう」な場面で、
どちらを選ぶ会社なのかが分かる。
② 行動に翻訳できる
理念を聞いて、
「じゃあ、こう動こう」と言えるか。
③ 社長自身が守れる
一番大事です。
社長が守れない理念は、
社員も絶対に守りません。
管理会計と理念の、実は深い関係
ここで、管理会計の話に戻します。
管理会計とは、
数字を使って意思決定をするための道具です。
でも、その意思決定の「方向」を決めるのは理念です。
- 利益を最大化したいのか
- 安定を優先したいのか
- 成長スピードを重視するのか
同じ数字を見ても、
理念が違えば、結論は変わります。
だから、
理念なき管理会計は、ただの数字遊び
になってしまうのです。
理念は、完成させなくていい
最後に、大事なことを一つ。
理念は、
- 最初から完璧でなくていい
- 一生変えてはいけないものでもない
むしろ、
使いながら、磨いていくものです。
判断に使ってみて、
「なんか違うな」と思ったら直せばいい。
大事なのは、
**“判断に使おうとしているかどうか”**です。
今日の一言
理念とは、きれいに語るための言葉ではない。
迷ったときに、会社を前に進めるための「判断基準」である。
