
――数字の前に、社長の軸を作る・第4回――
「それ、ビジョンですか?それとも目標ですか?」
社長との打ち合わせで、こんなやり取りがよくあります。
社長
「うちのビジョンは、売上10億円を目指すことです」
私
「なるほど。では、10億円を達成したら、その先はどうなっていたいですか?」
社長
「……そのとき考えます」
この瞬間、ほぼ間違いなく
ビジョンと目標が混同されています。
これは、珍しい話ではありません。
むしろ、多くの中小企業がここでつまずいています。
今回のテーマは、
「ビジョン」と「目標」を混同している会社に、必ず起きていること
そして、その混同がなぜ経営を不安定にするのか、です。
売上目標はあるのに、なぜ会社がバラバラになるのか
まず、よくある状況を整理してみましょう。
- 売上目標は決まっている
- 利益目標も一応ある
- 数字の管理もしている
それなのに、
- 社員の方向性が揃わない
- 判断が場当たり的になる
- 「何のためにやっているのか」が見えない
社長自身も、こんな感覚を持っています。
「数字は追っているはずなのに、手応えがない」
「成長している気がしない」
「忙しいだけで、前に進んでいる感じがしない」
この正体が、
ビジョン不在の経営です。
ビジョンと目標は、役割がまったく違う
ここで、一度きれいに整理しましょう。
目標とは何か?
目標とは、
- 数字で測れる
- 達成・未達がはっきりする
- 一定期間で区切られる
例:
- 売上◯億円
- 利益率◯%
- 店舗数◯店舗
管理会計が得意とする領域です。
ビジョンとは何か?
一方、ビジョンとは、
- 将来、会社がどうなっていたいか
- 社会や顧客から、どう見られていたいか
- 社員が、どんな誇りを持って働いているか
例:
- 「地域で一番、信頼される会社になる」
- 「この会社で働いてよかった、と言われる組織になる」
- 「価格ではなく価値で選ばれる存在になる」
ビジョンは、状態や姿を描くものです。
数字では測れません。
混同が起きる最大の理由:「数字の方が安心だから」
では、なぜ多くの会社がこの2つを混同するのでしょうか。
理由は、とてもシンプルです。
数字の方が、分かりやすくて安心だから。
- 数字なら説明できる
- 数字なら管理できる
- 数字なら「ちゃんとやってる感」が出る
一方で、ビジョンは、
- 抽象的で
- 正解がなく
- 社長の価値観がむき出しになる
だから、無意識に避けられます。
結果、
「売上◯億円を目指す会社です」
という、“目標をビジョンと呼ぶ現象”が起きるのです。
ケース①:目標達成しても、なぜ社員が疲弊したのか
あるサービス業の会社の話です。
社長は、明確な数字目標を掲げていました。
- 売上前年比120%
- 利益率改善
結果として、数字は達成。
決算書も、以前より良くなりました。
しかし、社内の空気はこうでした。
- 「正直、もう限界」
- 「何のために頑張ったのか分からない」
- 「また来期も同じことをやるのか…」
社長は戸惑います。
「数字は良くなったのに、なぜ?」
原因は明確でした。
“その先にある姿”が、共有されていなかった。
社員にとっては、
- なぜ120%なのか
- 達成したら、何が変わるのか
- 自分たちは、どこに向かっているのか
が見えなかったのです。
ビジョンがあると、目標の意味が変わる
もし、この会社にビジョンがあったらどうでしょう。
例えば、
「この地域で、一番『任せて安心』と言われる会社になる」
というビジョンがあったとします。
すると、売上120%は、
- 無理な拡大ではなく
- サービス品質を高めた結果として
- 信頼が積み上がった数字
として意味づけられます。
同じ数字でも、
受け取られ方がまったく変わるのです。
ケース②:ビジョンがある会社は、目標が変わってもブレない
別の会社では、外部環境の変化で当初の計画が崩れました。
- 市場縮小
- 原価高騰
- 競合の参入
当初の売上目標は、現実的ではなくなりました。
しかし、社内は不思議と落ち着いていました。
なぜか。
その会社のビジョンは、こう定義されていたからです。
「うちは、規模よりも“選ばれ続ける会社”を目指す」
その結果、
- 目標数字は修正
- 重点顧客を絞る
- 利益率重視に切り替え
という判断が、スムーズに行われました。
ビジョンがあったから、目標を変えても迷わなかった。
ビジョンがない会社に起きる3つの共通点
ここまでの話をまとめると、
ビジョンと目標を混同している会社には、次の共通点があります。
① 目標が変わるたびに、方針もブレる
数字が変わる=方向転換、になってしまう。
② 社長の説明が、いつも「数字の話」だけ
社員は、「結局、数字しか見てない」と感じる。
③ 管理会計が“管理”で終わる
数字を見て、詰めるだけ。
未来の話にならない。
管理会計は「ビジョンに近づくための計器」
ここで、管理会計の役割を改めて整理します。
管理会計は、
ビジョンという目的地に向かうための、計器類
です。
- 今、どの位置にいるのか
- 速度は適切か
- 燃料(資金)は足りているか
目的地(ビジョン)がなければ、
計器はただの数字になります。
ビジョンは、社長が語る「未来の風景」
最後に、大事な視点を一つ。
ビジョンは、
- 数字に落とす必要はありません
- 立派な言葉でなくていい
- 社長の言葉で語られることが重要
社員が、
「それ、いいですね」
「そんな会社になりたいですね」
と言えるかどうか。
それが、ビジョンとして機能しているかの判断基準です。
今日の一言
目標は、通過点。
ビジョンは、向かう先。
この2つを混同した瞬間、経営は数字に振り回され始める。
