
――数字の前に、社長の軸を作る・第7回――
管理会計を入れたのに、なぜ会社が苦しくなるのか?
こんな相談を受けることがあります。
「管理会計をちゃんと入れたはずなのに、
なぜか社内がギスギスしてきたんです」「数字は見えるようになったのに、
判断が余計にしづらくなりました」
これは、珍しい話ではありません。
むしろ、管理会計を導入した会社ほど起きやすい事故です。
原因は一つ。
理念と管理会計がズレている
今回は、このズレが引き起こす
**“静かだけれど致命的な経営事故”**についてお話しします。
管理会計は「中立」ではない
まず、大前提として知っておいてほしいことがあります。
管理会計は、価値観を内包する仕組みである
- 何をKPIにするか
- どこまで細かく見るか
- 誰を評価するか
これらはすべて、
経営者の価値観=理念の影響を受けます。
理念と切り離された管理会計は、
ハンドルのない車と同じです。
経営事故①:数字が正しいのに、判断が間違う
事例:地域密着型サービス会社
理念:
「お客様との長い信頼関係を大切にする」
しかし、導入した管理会計は、
- 月次売上
- 担当者別利益率
- 工数効率
結果、何が起きたか。
- 手間のかかる顧客を避ける
- 短期利益が出ない案件を断る
- サポート品質が下がる
数字上は「改善」しているのに、
理念から見ると真逆の行動が加速しました。
これが、
数字は合っているのに、経営が間違う事故
です。
経営事故②:社員が「正解」を失う
理念と管理会計がズレると、
一番困るのは誰か。
それは、社員です。
- 理念では「挑戦しろ」と言われる
- 数字では「失敗すると評価が下がる」
この矛盾の中で、
社員はこう学習します。
「結局、数字だけ見ていればいい」
すると、
- 無難な行動しかしない
- 新しい提案が出なくなる
- 空気を読む組織になる
理念が、張りぼてになります。
経営事故③:社長自身が数字に振り回される
意外ですが、
理念と管理会計がズレていると、
一番苦しくなるのは社長本人です。
- 数字は達成しているのに、違和感がある
- 判断するたびにモヤっとする
- 「これでいいのか?」が消えない
これは、
自分の価値観と数字が喧嘩している状態です。
社長が決断を先延ばしにし始めたら、
このズレを疑う必要があります。
経営事故④:管理会計が「監視装置」になる
理念が反映されていない管理会計は、
こう使われがちです。
- 「数字が悪い理由を説明しろ」
- 「前年より下がっている」
- 「目標未達だ」
すると、管理会計は、
経営のための道具 → 追及の道具
に変わります。
結果、
- 会議で本音が出ない
- 数字を守るための行動が増える
- 問題が隠れる
これは、
管理会計が組織を壊す事故です。
なぜズレは起きるのか?
理由は、とてもシンプルです。
理念を言葉で止めて、
数字に翻訳していないから
- 理念は壁に貼ってある
- 管理会計はExcelで動いている
この二つが、
一度も接続されていないのです。
チェック①:この数字は、理念に沿っていますか?
ズレを防ぐために、
社長に必ずやってほしい問いがあります。
「この数字は、
うちの理念にとって“良い成果”ですか?」
- 利益が出た → どんなやり方で?
- 売上が伸びた → 誰を幸せにした?
- 効率化した → 何を犠牲にした?
この問いを通さない数字は、
経営判断に使ってはいけません。
チェック②:見ていない数字は、意図的か?
もう一つ重要なのが、
「見ていない数字」が、意図的かどうか
- 人材育成を重視するなら、
短期生産性を見ないのはアリ - 顧客満足を重視するなら、
一部の非効率は許容する
これは、
**理念に基づいた“戦略的な無視”**です。
無意識に見ていないのは危険ですが、
意図的に見ないのは、立派な経営判断です。
理念と管理会計が噛み合った会社の変化
ある製造業の会社では、
理念をこう定義し直しました。
「安定した雇用を守りながら、
無理のない成長を続ける」
それに合わせて、管理会計も変更。
- 売上成長率 → 参考指標
- 月次キャッシュ → 最重要
- 残業時間 → 経営指標
すると、
- 判断が速くなった
- 社長の迷いが減った
- 社員の納得感が上がった
管理会計が、
理念の味方になった瞬間です。
管理会計は「理念の拡声器」
ここまでの話を、
一言でまとめるとこうです。
管理会計は、理念を大きな声で伝える装置
理念がズレていれば、
ズレたメッセージが拡声されます。
だからこそ、
- 管理会計を入れる前に理念
- 数字を増やす前に軸
この順番が、絶対に崩れてはいけません。
今日の一言
理念とズレた管理会計は、
会社を壊す「静かな事故」を起こす。
数字は、社長の軸と必ずセットで使おう。
