
――数字の前に、社長の軸を作る・第9回――
社長の仕事は「迷うこと」から逃げられない
社長という立場にいる限り、
迷いのない日はほとんどありません。
- この投資は、今やるべきか
- この人材は、本当に採用していいのか
- この値上げは、顧客にどう映るか
- 今の方向性で、5年後も生き残れるのか
誰かが「正解」を教えてくれるわけでもなく、
決断の結果は、すべて自分に返ってくる。
だから社長は、
「迷ってはいけない立場」
のように思われがちですが、
実際はその逆です。
社長の仕事は、迷い続けること
そして、
その迷いをどう扱うかで、
社長の強さが決まります。
強い社長は「迷わない人」ではない
ここで、ひとつ誤解を解いておきましょう。
強い社長 = 即断即決で迷わない人
これは、ほぼ幻想です。
実際に強い社長ほど、
- よく考える
- よく悩む
- よく立ち止まる
ただし、
迷い方が違うのです。
弱い迷いは、
「どうすれば失敗しないか」
強い迷いは、
「自分たちは、どうありたいか」
この違いを生むのが、
**理念という“立ち返り先”**です。
迷いが深くなる理由は「判断軸が複数ある」から
社長が迷うとき、
頭の中ではこんな声が同時に鳴っています。
- 売上はどうなる?
- 利益は確保できる?
- 社員は納得する?
- 銀行はどう見る?
- 家族は安心する?
どれも正しい。
どれも無視できない。
だからこそ、
判断軸が乱立して、決めきれなくなる
この状態で数字だけを見ると、
- A案も悪くない
- B案も致命的ではない
結果、決断が先延ばしになります。
理念とは「迷ったときに戻る北極星」
理念を持つ社長は、
迷ったときにこう問い直します。
「この判断は、
うちの理念に照らしてどうか?」
この一問があるだけで、
- 判断軸が一本に戻る
- 余計なノイズが消える
- 決断に“納得感”が生まれる
理念は、
判断を楽にするための道具
でもあるのです。
ケーススタディ①:儲かるが、やりたくない仕事
あるITサービス会社の話
大手から、
かなり条件の良い業務委託の話が来ました。
- 売上は一気に伸びる
- 3年契約で安定
- 社員の稼働も埋まる
数字だけ見れば、
「やらない理由がない」案件です。
しかし社長は迷いました。
理由は、
- 下請け色が強い
- 裁量がほぼない
- 自社の強みが活かせない
最終的に社長が立ち返ったのは、
この理念でした。
「自分たちの技術で、
お客さんの意思決定を支える会社でありたい」
結論:
案件は断る。
短期的には売上を捨てましたが、
結果として、
- 自社サービス開発に集中
- 強みが明確化
- 似た価値観の顧客が集まる
理念に立ち返った判断が、
数年後に“正解”になります。
ケーススタディ②:社員の要望 vs 利益計画
別の会社では、
- 社員から「働き方を変えたい」という声
- 一方で、利益計画はギリギリ
ここでも社長は迷いました。
社員満足を取るか
利益を取るか
この二択に見えた瞬間、
社長は理念を見返しました。
「人が成長し続ける会社を作る」
そこで判断を分解します。
- これは“甘え”か?
- それとも“成長投資”か?
結果、
- 働き方は一部変更
- ただし成果基準は明確化
理念があることで、
両立案が見つかりました。
理念に立ち返れる社長は、決断を引きずらない
理念に基づいた判断には、
共通点があります。
それは、
決断のあとに、後悔が残りにくい
うまくいかなかったとしても、
- あの時点では、これが最善
- 自分たちらしい判断だった
と、腹落ちできる。
この「腹落ち感」は、
- 次の判断を早くする
- ブレない経営を生む
- 周囲の信頼を集める
社長の“強さ”の源です。
数字は「比較」を生み、理念は「覚悟」を生む
数字は便利です。
- 過去と比べられる
- 他社と比べられる
- 計画と比べられる
でも、比較が増えるほど、
迷いも増えます。
理念は違います。
比較ではなく、覚悟を問う
- これが自分たちの選択だ
- 他社がどうでも関係ない
この覚悟がある社長は、
数字を見ても振り回されません。
迷いが消えるのではなく、「質」が変わる
理念を持つと、
- 迷いがなくなる
- 悩まなくなる
わけではありません。
ただし、
迷いの質が変わる
- 小手先の損得では迷わない
- 本質的な方向性でのみ迷う
これは、
経営ステージが一段上がった証拠です。
理念は、社長を一人にしない
最後に、とても大切なことを。
社長は孤独です。
相談相手はいても、
最終決断は常に一人。
そんなとき、
理念は、
もう一人の“自分”として
隣に立ってくれる存在
になります。
- 昔の自分
- 会社を始めた頃の想い
- 守りたかった価値
それらを思い出させ、
「それでいい」と背中を押してくれる。
今日の一言
迷ったときに理念に立ち返れる社長は、
答えを探しているのではなく、
自分の軸で決断している。
だから強い。
