
――成長は、設計しないと壊れる・第2回――
「まずは売上を伸ばそう」が口癖になった瞬間
経営の相談を受けていると、非常によく出てくる言葉があります。
「細かいことは後でいいので、
まずは売上目標を立てましょう」
この言葉、実はかなり危険です。
なぜなら――
売上目標“だけ”が独り歩きし始めると、会社は高確率で失速するからです。
しかもやっかいなのは、
失速は「売上が落ちてから」ではなく、
売上が伸びている最中に、すでに始まっているという点です。
売上目標は「一番立てやすい数字」である
売上目標が好まれる理由は、実にシンプルです。
- 分かりやすい
- 計算が簡単
- 社内に説明しやすい
たとえば、
- 去年1億円 → 今年1.2億円
- 月商800万円 → 月商1,000万円
数字としても、言葉としても、とてもきれいです。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
売上は「結果」であって、「設計変数」ではない
という点です。
売上だけを目標にすると、何が抜け落ちるのか
売上目標しかない経営では、
次の問いが、すっぽり抜け落ちます。
- その売上は、誰が作るのか
- どの商品・サービスで作るのか
- 利益はどれくらい残るのか
- 現金はいつ入ってくるのか
つまり、
「どうやって」売上を作るかの設計がない
状態で、走り出してしまうのです。
ケーススタディ①:売上120%でも資金が苦しくなった会社
ある卸売業の会社。
社長は毎年、明確な売上目標を掲げていました。
- 前年比120%
- 営業会議でも売上進捗を徹底管理
結果、数字だけ見れば順調です。
しかし現実は、
- 利益率は低下
- 在庫が増加
- 支払いが先、回収が遅い
資金繰りは年々苦しくなっていきました。
社長は言います。
「売上は伸びてるんです。
なのに、なんでこんなに苦しいんでしょうか?」
答えは単純です。
売上しか設計していなかった
からです。
売上目標は「アクセル」にはなるが「ハンドル」にはならない
売上目標は、
人を動かす力を持っています。
- 営業は動く
- 現場は走る
- 空気は盛り上がる
まさにアクセルです。
しかし――
方向を決めるハンドルがないままアクセルを踏むと、どうなるか。
- 無理な受注
- 値引き
- 採算度外視
結果、スピードは出るが、
行き先は誰も分からない。
これが、売上目標偏重経営の正体です。
「売上目標だけ」の会社に共通する3つの歪み
① 利益は「後で何とかなる」と思っている
売上目標だけがある会社では、
利益は「結果論」
になりがちです。
- 売れた後で計算
- 決算で初めて確認
つまり、利益は管理対象ではない。
これでは、利益が安定するはずがありません。
② 現場判断がブレ始める
売上目標しか示されていないと、現場はこう考えます。
- とにかく売れ
- 断るな
- 数を取れ
すると、
- 利益率の悪い案件
- 手間のかかる顧客
- 将来性のない取引
も、すべて同列に扱われます。
③ 社長が常に「数字に追われる側」になる
売上目標だけを追う経営では、
- 未達 → 焦る
- 達成 → 次はもっと
常に、数字に追い立てられます。
結果、社長の頭の中は、
「今月どうするか」
で埋め尽くされ、
本来考えるべき成長設計に時間が使えないのです。
売上目標は「最後」に置く数字である
ここで大事な考え方があります。
売上目標は、最初に立てる数字ではない
本来の順番は、こうです。
- どんな成長をしたいのか
- どんな構造にしたいのか
- どれくらい利益を残したいのか
- その結果、いくらの売上が必要か
つまり、
売上は「逆算」で出てくる数字
なのです。
ケーススタディ②:売上目標を「後回し」にした会社
あるサービス業の社長。
以前は毎年、売上目標だけを立てていました。
しかし、ある年から方針を変更。
- まず、社長が働かなくても回る状態を定義
- 次に、最低限必要な利益額を決定
- 最後に、そのための売上を計算
結果、
- 売上目標は以前より低下
- しかし利益と現金は安定
- 社長の稼働時間は激減
この会社は、
売上を「目的」から「条件」に戻した
のです。
事業計画とは「売上目標を縛る道具」である
多くの社長は誤解しています。
事業計画=売上目標を立派に見せる資料
ではありません。
本来の事業計画は、
- 売上を
- 利益構造で縛り
- 資金制約で縛り
- 人のキャパで縛る
ためのものです。
つまり、
「この売上なら、壊れない」
という上限と下限を決める道具
なのです。
売上目標だけの会社が、なぜ必ず失速するのか
理由は一つです。
売上以外の制約条件を無視しているから
人・お金・時間・仕組み。
これらを無視した成長は、
必ずどこかで歪みを生みます。
失速とは、
その歪みが表に出た瞬間に過ぎません。
今日の一言
売上目標は、成長のスタート地点ではない。
壊れない設計を終えたあとに、
静かに置かれる「結果の数字」である。
