
――戦わない市場を決めるという戦略・第2回――
「うちは、できるだけ多くの人に売りたいんです」
経営者からよく聞く言葉があります。
「対象は、特に絞っていません」
「来てくれる人は、断らないようにしています」
「誰でも使えるサービスなので」
この言葉自体、悪気はまったくありません。
むしろ、真面目で誠実な社長ほどこう言います。
ただ、ここに
**会社が苦しくなる“入口”**が潜んでいます。
「誰にでも売る」は、優しさではなく“戦略不在”
まず結論から言います。
誰にでも売ろうとする会社は、
結果として、誰にも選ばれません。
少し厳しく聞こえるかもしれませんが、
これはマーケティングの世界では、
ほぼ例外なく当てはまる事実です。
なぜなら、
- 誰にでも向けたメッセージは
- 誰の心にも刺さらない
からです。
なぜ社長は「絞る」ことに抵抗を感じるのか
多くの社長が、こう思っています。
- 絞ると、売上が減りそう
- チャンスを逃す気がする
- せっかくの問い合わせを断りたくない
特に、創業期や小規模事業では、
「来てくれる人は、全部大事」
という感覚が強い。
これは自然な感情です。
しかし、事業が続いて苦しくなる会社ほど、
この感覚をずっと手放せていません。
ケーススタディ①:仕事は多いのに、なぜか儲からない会社
あるサービス業の会社。
- 業種も規模もバラバラな顧客
- 依頼内容も毎回違う
- 忙しいが、利益が残らない
社長はこう言います。
「仕事は途切れないんです。でも、楽にならない」
理由は明確です。
- 毎回、説明が必要
- 毎回、調整が発生
- 毎回、イレギュラー対応
つまり、
仕事が“積み上がらない”
のです。
「誰にでも売る」と、社内に何が起きるか
顧客を絞らない会社では、
社内でこんな現象が起きます。
- 営業ごとに説明が違う
- 現場が毎回迷う
- 判断基準がなくなる
結果として、
- 時間がかかる
- コストが読めない
- 利益率が安定しない
これは努力不足ではありません。
構造の問題です。
管理会計が機能しなくなる、隠れた理由
ここで、管理会計との関係を見てみましょう。
顧客がバラバラだと、
- 原価構造が見えない
- 標準が作れない
- 比較ができない
つまり、
数字が“意味を持たなくなる”
のです。
「今月は良かった・悪かった」
という感想止まりになり、
- なぜ良かったのか
- なぜ悪かったのか
が説明できません。
ケーススタディ②:「全部対応」が会社を疲弊させた例
ある制作会社。
- Webも紙も動画も対応
- 小規模から大企業まで対応
- 業界も問わない
一見、万能です。
しかし実態は、
- 人が足りない
- 単価が上がらない
- 社長が現場から抜けられない
理由はシンプルです。
「主戦場」がない
からです。
誰にでも売る会社は、価格でしか選ばれなくなる
顧客から見たとき、
- 専門性が見えない
- 違いが分からない
- 比較しやすい
こうなると、最後に残る判断基準は一つ。
価格
です。
結果、
- 値引きが増える
- 利益が削られる
- 忙しいのに苦しい
という、最悪のループに入ります。
「選ばれる会社」は、最初から絞っている
一方で、安定している会社は違います。
- 「この人向け」の言葉で話す
- 「この悩み」に特化している
- 「この場面」に強い
だから、
- 説明が短い
- 判断が早い
- 利益率が安定する
売らなくても、選ばれる
状態が生まれます。
絞るとは「排除」ではない
ここで大事な誤解を解いておきます。
絞る=他を切り捨てる
ではありません。
絞るとは、
「一番力を発揮できる場所を決める」
ということ。
結果として、
- 無理な案件が減る
- 社内が楽になる
- 数字が読めるようになる
のです。
市場戦略とは「勇気を持って、やらないことを決める」
市場戦略の本質は、
- 何をやるか
よりも、 - 何をやらないか
にあります。
誰にでも売ろうとする限り、
- 戦いは終わらない
- 消耗は続く
- 数字は安定しない
管理会計は「誰に売るか」が決まって初めて意味を持つ
顧客が定まると、
- 見るべきKPIが決まる
- 原価の基準ができる
- 改善点が見える
管理会計は、
市場戦略の“結果”として回り始める
のです。
このシリーズで伝えたいこと(再確認)
このシリーズは、
- 戦い方を教える話
ではありません。
戦わなくていい市場を、どう決めるか
を扱っています。
その第一歩が、
「誰にでも売らない」
という決断です。
今日の一言
誰にでも売ろうとする会社は、
誰のための会社なのかが分からなくなる。
選ばれる会社は、最初から“選んでいる”。
