③判断基準がない会社で起きていること


――社長の仕事は、決めること・第3回――

なぜ、同じような判断で毎回疲れ切るのか

社長の方から、こんな言葉をよく聞きます。

「毎回ちゃんと考えて決めているはずなのに、
なぜか判断がしんどいんですよね…」

・新しい仕事を受けるかどうか
・値上げするか、我慢するか
・人を増やすか、今は耐えるか

一つ一つは、よくある経営判断です。
特別に難しい話ではありません。

それなのに、
決断のたびに消耗してしまう会社があります。

その原因は、社長の能力でも、覚悟の問題でもありません。

「判断基準」が会社に存在していない

これが、すべての始まりです。


判断基準がない会社の意思決定は「毎回一から」

判断基準がない会社では、
どんな意思決定も、こうなります。

・状況を説明する
・過去の経験を思い出す
・感覚で「たぶんこうだろう」と考える
・最後は気合いで決める

つまり、
毎回、ゼロから考えているのです。

これを人に例えると、

ルールのないゲームを、
毎回その場で作りながらプレイしている状態

そりゃ疲れます。

しかも、その判断が
・正しかったのか
・間違っていたのか
後から検証する基準もありません。

結果、社長の頭の中には、
「なんとなくの後悔」だけが溜まっていきます。


判断がブレる会社の“見えない原因”

判断基準がない会社で起きる典型的な症状があります。

それが、判断のブレです。

例えば──

・先月は「利益優先」と言っていたのに
・今月は「売上を取りに行こう」と方針転換

社員から見ると、

「結局、どっちなんですか?」

となります。

社長自身も、

「あれ…前に言ってたことと違うな」

と感じているはずです。

これは優柔不断なのではありません。

その場の空気・感情・不安が、判断基準の代わりになっている
ただ、それだけです。


「その時の気分経営」が生まれる瞬間

判断基準がないと、何が起きるか。

答えはシンプルです。

一番強い感情が、判断を支配する

・忙しすぎる → 断る
・売上が不安 → 受ける
・社員が疲れている → 無理をさせない
・銀行が怖い → 保守的になる

どれも理解できます。
どれも社長として自然な感情です。

しかし問題は、

感情そのものが、判断ルールになってしまうこと

これが続くと、
会社の意思決定は「一貫性」を失います。

結果、社長はこう言われ始めます。

「社長の考えが、よく分からない」


ケース:受注判断が毎回“修羅場”になる会社

ある制作業の会社の話です。

この会社では、
新しい案件の相談が来るたびに、社内がざわつきます。

・忙しいけど売上は欲しい
・利益は薄いが、付き合いは大事
・将来につながるかもしれない

会議は毎回、同じ議論。

最終的に社長が、

「今回は…受けよう」

と言うと、
社員はホッとする一方で、心の中ではこう思っています。

「またか…」

なぜなら、
「どんな仕事なら受けるのか」が誰にも分からないからです。

この会社に足りなかったのは、能力ではありません。

・粗利〇%以上
・工数〇時間以内
・将来案件につながる条件

こうした判断基準が一切言語化されていなかったのです。


判断基準がないと、責任が全部社長に集まる

判断基準がない会社では、
意思決定の責任はどうなるか。

すべて、社長に集中します。

・うまくいけば「たまたま」
・失敗すれば「社長の判断ミス」

社員はこう考えます。

「だって、基準がないから仕方ないですよね」

一方、社長はこう思っています。

「誰も止めてくれなかった…」

このすれ違いが、
社長の孤独と疲弊を加速させるのです。


判断基準がある会社では、何が違うのか

逆に、判断基準がある会社ではどうなるでしょうか。

例えば、こんな基準があるだけで変わります。

・この仕事は「利益目的」か「関係維持目的」か
・短期利益か、長期投資か
・社長がやる仕事か、任せる仕事か

すると、判断はこうなります。

「この案件は、基準②に当てはまるから今回は見送ろう」

これは冷たい判断ではありません。

感情ではなく、設計されたルールに従っているだけです。

結果、
・判断が早くなる
・後悔が減る
・社員とのズレも減る

社長の頭と心が、確実に軽くなります。


判断基準とは「縛り」ではなく「解放」

判断基準というと、
「自由がなくなりそう」と感じる方もいます。

でも実際は逆です。

判断基準は、社長を縛るものではなく、
毎回悩む地獄から解放するもの

・迷う回数が減る
・同じことで悩まなくなる
・説明責任も果たしやすくなる

つまり、
判断基準は、社長のための道具なのです。


この先で扱うテーマ

次回以降では、

・良い判断基準の作り方
・数字を使った判断軸
・「感覚」と「基準」をどう共存させるか

を、具体的に扱っていきます。

判断は、才能ではありません。
設計できます。


今日の一言

判断がしんどい会社ほど、社長が悪いのではない。
判断基準が存在していないだけだ。


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