
――管理会計が回るDX、回らないDX・第1回――
DX導入=経営が楽になる、は幻想
昨今、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を耳にしない日はありません。
- 「業務を自動化すれば、経営が楽になる」
- 「最新のクラウドツールを入れれば、会社が強くなる」
確かにツールやシステムの導入は重要です。しかし、DXを導入しても、経営が楽にならない会社は少なくありません。その共通点は、実はツールやシステムの問題ではなく、管理会計・意思決定の土台の作り方にあります。
共通点1:目的が曖昧なDX
DXは「手段」であって「目的」ではない
- 単に「ペーパーレスにしたい」
- 「売上データをクラウドに上げたい」
こうした漠然とした目的でDXを始める会社は、システム導入後に次のような状況に陥ります。
- データは揃ったけど分析できない
- 報告は自動化されたが意思決定には役立たない
- 経営者は何が重要か分からず混乱
ケーススタディ:小売業A社
- クラウドPOSを導入 → 全店舗の売上データが自動で集計される
- 問題:売上は見えるが、粗利や店舗別採算が分からず経営判断できない
- 結果:データは揃ったが、経営は楽にならない
ポイント:DXは手段であり、経営課題を解決するために設計することが必須です。
共通点2:数字が揃っていないままDXする
DXはデータが命です。しかし、データの精度やルールが整っていない状態で導入すると逆効果になります。
「入力ルールが曖昧」→集計が壊れる
- 部門ごとに売上や経費の計上方法が違う
- 工程別原価の計算式が統一されていない
こうなると、システムにデータを流し込んでも、集計結果は信頼できません。
経営者は結局「手作業で確認」せざるを得ず、DX導入前よりも工数が増えることもあります。
ケーススタディ:製造業B社
- 生産管理システム導入 → データを自動で集計
- 問題:工程別原価の計上ルールが統一されておらず、月末には手作業で修正
- 結果:DX導入で便利になったはずが、逆に経理担当の負担増
ポイント:DX前に、データの入力ルール・定義を徹底することが必須
共通点3:現場と経営で見る数字が分離している
- 現場は作業用の数字、経営は意思決定用の数字
- DXで全てを「一元管理しよう」とすると、現場が入力しにくくなる
結果、現場は抵抗感を持ち、データの精度が低下。経営者は「集計されたけど意味がない数字」を見て意思決定に迷う…という悪循環になります。
ケーススタディ:サービス業C社
- DXツールで売上・工数・原価を自動集計
- 問題:現場は複雑な入力を嫌がり、データが部分的に抜ける
- 経営者は「数字は揃ったが信用できない」状態
- 結果:DX導入後も意思決定は従来どおり手作業
ポイント:現場用Excel/入力用シートと、社長用・意思決定用の集計・分析シートを分ける
共通点4:判断ルールが整っていない
DXで経営が楽にならない会社は、「数字を揃えること」に意識が偏り、「判断ルール」を作っていないことが多いです。
- 売上や原価が見える → でもどう判断するかは従来どおり
- 粗利率や損益分岐点などの経営指標が未整備
この状態では、データは揃っても意思決定は従来どおり手作業。結果、DX前とほぼ変わらない状況に。
ケーススタディ:小規模製造業D社
- DX導入:生産・販売・在庫を一元管理するシステム
- 問題:粗利や部門採算の判断基準が未定義
- 結果:経営者は「どの製品を増産すべきか」が判断できず、会議時間だけが増える
ポイント:DXは「意思決定が速くなること」をゴールに設計することが重要
DXしても経営が楽にならない会社の共通点まとめ
- 目的が曖昧で、DXが手段でなく目的になっている
- 数字の定義・入力ルールが整っていないまま導入
- 現場と経営で数字の役割・見る角度が分離
- 判断ルールが整備されておらず、意思決定に活かせない
逆に、これらをクリアした会社は、DX導入後に経営判断のスピードが上がり、会議や業務の負担が劇的に減るという共通点があります。
DXの本質は「システム導入」ではなく、「意思決定が速く、確実になる仕組みを作ること」にあります。
今日からできるDX前のチェックリスト
- DX導入の目的を明確化
- 「経営判断を速くする」「業務負担を減らす」など
- 数字の定義・入力ルールを統一
- 売上・原価・工数などは全社で共通のルール
- 現場用と経営用のシートを分ける
- 現場は入力に集中、経営は判断に集中
- 判断ルール・KPIを明確化
- 粗利率・損益分岐点・在庫回転率など、意思決定に必要な指標を定義
今日の一言
DXは魔法ではない。数字の土台と意思決定ルールが整って初めて、経営が楽になる。
