
― 分かるほど、決められなくなる社長へ ―
「分解すれば分かる」は、本当か?
管理会計の話になると、よくこんな言葉を耳にします。
「数字は、細かく分解しないと意味が分からない」
「原因を探るには、分解が必要だ」
たしかに、一理あります。
数字を分けて見れば、今まで見えなかったものが見えることもあります。
ところが、虎の穴に相談に来る社長たちの多くは、
すでに十分すぎるほど分解しています。
- 商品別
- 取引先別
- 担当者別
- 月別、週別、日別
それでも、こう言います。
「数字はあるんです。でも、何を決めたらいいのか分からないんです」
これは、とても象徴的な状態です。
分解しているのに、分かっていない。
むしろ、分解したせいで苦しくなっている。
この記事では、あえて逆のことを言います。
管理会計は、細かく分解しすぎてはいけない
なぜ虎の穴が、そう考えているのか。
その理由を、社長目線で丁寧に説明していきます。
分からなくなっている社長の現実
ある小規模サービス業の社長の話です。
その社長は、とても真面目でした。
コンサルに言われるがまま、管理会計表を作り込みました。
- サービスメニュー別の売上
- スタッフ別の稼働率
- 原価項目を10分類
- 固定費を15項目に分解
エクセルは立派でした。
色分けもされ、グラフもあります。
でも、半年後に聞いた言葉は、こうでした。
「正直、見るのがしんどいんです。
数字が多すぎて、頭が止まってしまう」
この社長に足りなかったのは、努力でも知識でもありません。
「社長が決めるための数字」になっていなかった
それだけなのです。
分解が社長を苦しめる瞬間
数字が増えるほど、決められなくなる
人は、扱える情報量に限界があります。
管理会計でも同じです。
- 数字が3つなら、全体像が見える
- 数字が10を超えると、比較で疲れる
- 20を超えると、思考が止まる
社長の頭の中では、こんなことが起きています。
「Aは良いけどBが悪い
でもCは改善していて
ただDを見ると不安で……」
結果、どうなるか。
何も決められない。
これは、能力不足ではありません。
情報過多による、正常な反応です。
「理解」と「判断」は、まったく別物
ここで、とても大事なことがあります。
数字を理解することと、判断できることは別
という点です。
- 細かく説明できる
- 内訳を把握している
それでも、
- 値上げするか決められない
- 人を増やすか迷い続ける
これは、「理解」はしているが、
判断に使えていない状態です。
管理会計のゴールは、理解ではありません。
社長が、決められる状態になること
これを見失うと、
分解は社長を助けるどころか、苦しめます。
社長が見るべき数字の粒度
現場目線と社長目線の違い
分解が必要になる場面は、たしかにあります。
それは、多くの場合現場の改善です。
- なぜこの工程でロスが出るのか
- なぜこの商品だけクレームが多いのか
ここでは、細かさが武器になります。
しかし、社長の仕事は違います。
- どこに資源を配分するか
- 何を捨て、何に集中するか
- 事業の方向性をどうするか
この判断に、
現場レベルの細かさは不要です。
むしろ邪魔になります。
粗さが、意思決定を早くする
虎の穴では、よくこんな話をします。
「社長が見る数字は、
“だいたい合っている”で十分です」
例えば、
- 売上の柱は、3本ある
- 儲かっている事業と、苦しい事業がある
- 固定費が、今の規模に対して重いか軽いか
この“粗い把握”があるだけで、
- 値上げか
- 撤退か
- 集中投資か
の判断スピードは、劇的に上がります。
管理会計において、
精度よりも、速度の方が価値を持つ場面は多いのです。
分解しないから見える全体像
構造で捉える管理会計
虎の穴が大切にしているのは、
内訳ではなく、構造です。
例えば、こんな捉え方。
- 売上 − 変動費 = 粗利
- 粗利 − 固定費 = 利益
極端に言えば、
まずはこの2段構えで十分です。
ここで見るべきは、
- 粗利率は、事業として成立しているか
- 固定費は、その粗利で支えられるか
この構造が歪んでいれば、
細かい内訳を見ても、答えは出ません。
小さな違和感に気づける理由
面白いことに、
数字を粗く見るようになると、
違和感には、むしろ敏感になります。
- 「あれ?思ったより利益が残らないな」
- 「売上は伸びたのに、楽になっていない」
こうした感覚は、
数字を“塊”で見ているからこそ生まれます。
分解しすぎると、
違和感は内訳の中に埋もれてしまいます。
虎の穴では、
この「引っかかり」をとても大事にします。
分解は「必要になってから」でいい
分解するタイミングの見極め
誤解してほしくないのは、
分解そのものを否定しているわけではないという点です。
分解が必要になるのは、こういうときです。
- 決めたいことが明確になった
- でも、判断材料が足りない
- その原因を探る必要がある
この順番です。
最初から分解しない。
決めるために、分解する。
ここを逆にすると、必ず迷子になります。
先に決めるべきこと
虎の穴で、最初に必ず聞く質問があります。
「今、社長が決めたいことは何ですか?」
- 売上を伸ばすのか
- 利益を残すのか
- 体制を変えるのか
これが決まって初めて、
「その判断に必要な数字は、どれですか?」
と進みます。
管理会計は、
表づくりではなく、意思決定設計なのです。
分解は、手段であって目的ではない
ここまでの話を、
一言でまとめます。
分解は、分かるためにするものではない。
決めるために、必要な分だけ行うものだ。
数字が増えて苦しくなっているなら、
それはあなたのせいではありません。
管理会計の使い方が、社長業とズレているだけです。
虎の穴は、
細かさよりも、構造を。
理解よりも、判断を。
そのスタンスで、
管理会計を再定義していきます。
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これを読むと、
「見る数字」が確実に変わります。
今日の一言
管理会計で一番やってはいけないのは、“分解すること”ではない。
“分解すれば分かる”と思い込むことだ。
