③なぜ「細かく分解しすぎない」管理会計なのか


― 分かるほど、決められなくなる社長へ ―

「分解すれば分かる」は、本当か?

管理会計の話になると、よくこんな言葉を耳にします。

「数字は、細かく分解しないと意味が分からない」
「原因を探るには、分解が必要だ」

たしかに、一理あります。
数字を分けて見れば、今まで見えなかったものが見えることもあります。

ところが、虎の穴に相談に来る社長たちの多くは、
すでに十分すぎるほど分解しています。

  • 商品別
  • 取引先別
  • 担当者別
  • 月別、週別、日別

それでも、こう言います。

「数字はあるんです。でも、何を決めたらいいのか分からないんです」

これは、とても象徴的な状態です。

分解しているのに、分かっていない。
むしろ、分解したせいで苦しくなっている。

この記事では、あえて逆のことを言います。

管理会計は、細かく分解しすぎてはいけない

なぜ虎の穴が、そう考えているのか。
その理由を、社長目線で丁寧に説明していきます。

分からなくなっている社長の現実

ある小規模サービス業の社長の話です。

その社長は、とても真面目でした。
コンサルに言われるがまま、管理会計表を作り込みました。

  • サービスメニュー別の売上
  • スタッフ別の稼働率
  • 原価項目を10分類
  • 固定費を15項目に分解

エクセルは立派でした。
色分けもされ、グラフもあります。

でも、半年後に聞いた言葉は、こうでした。

「正直、見るのがしんどいんです。
数字が多すぎて、頭が止まってしまう」

この社長に足りなかったのは、努力でも知識でもありません。

「社長が決めるための数字」になっていなかった
それだけなのです。

分解が社長を苦しめる瞬間

数字が増えるほど、決められなくなる

人は、扱える情報量に限界があります。

管理会計でも同じです。

  • 数字が3つなら、全体像が見える
  • 数字が10を超えると、比較で疲れる
  • 20を超えると、思考が止まる

社長の頭の中では、こんなことが起きています。

「Aは良いけどBが悪い
でもCは改善していて
ただDを見ると不安で……」

結果、どうなるか。

何も決められない。

これは、能力不足ではありません。
情報過多による、正常な反応です。

「理解」と「判断」は、まったく別物

ここで、とても大事なことがあります。

数字を理解することと、判断できることは別
という点です。

  • 細かく説明できる
  • 内訳を把握している

それでも、

  • 値上げするか決められない
  • 人を増やすか迷い続ける

これは、「理解」はしているが、
判断に使えていない状態です。

管理会計のゴールは、理解ではありません。

社長が、決められる状態になること

これを見失うと、
分解は社長を助けるどころか、苦しめます。

社長が見るべき数字の粒度

現場目線と社長目線の違い

分解が必要になる場面は、たしかにあります。

それは、多くの場合現場の改善です。

  • なぜこの工程でロスが出るのか
  • なぜこの商品だけクレームが多いのか

ここでは、細かさが武器になります。

しかし、社長の仕事は違います。

  • どこに資源を配分するか
  • 何を捨て、何に集中するか
  • 事業の方向性をどうするか

この判断に、
現場レベルの細かさは不要です。

むしろ邪魔になります。

粗さが、意思決定を早くする

虎の穴では、よくこんな話をします。

「社長が見る数字は、
“だいたい合っている”で十分です」

例えば、

  • 売上の柱は、3本ある
  • 儲かっている事業と、苦しい事業がある
  • 固定費が、今の規模に対して重いか軽いか

この“粗い把握”があるだけで、

  • 値上げか
  • 撤退か
  • 集中投資か

の判断スピードは、劇的に上がります。

管理会計において、
精度よりも、速度の方が価値を持つ場面は多いのです。

分解しないから見える全体像

構造で捉える管理会計

虎の穴が大切にしているのは、
内訳ではなく、構造です。

例えば、こんな捉え方。

  • 売上 − 変動費 = 粗利
  • 粗利 − 固定費 = 利益

極端に言えば、
まずはこの2段構えで十分です。

ここで見るべきは、

  • 粗利率は、事業として成立しているか
  • 固定費は、その粗利で支えられるか

この構造が歪んでいれば、
細かい内訳を見ても、答えは出ません。

小さな違和感に気づける理由

面白いことに、
数字を粗く見るようになると、
違和感には、むしろ敏感になります。

  • 「あれ?思ったより利益が残らないな」
  • 「売上は伸びたのに、楽になっていない」

こうした感覚は、
数字を“塊”で見ているからこそ生まれます。

分解しすぎると、
違和感は内訳の中に埋もれてしまいます。

虎の穴では、
この「引っかかり」をとても大事にします。

分解は「必要になってから」でいい

分解するタイミングの見極め

誤解してほしくないのは、
分解そのものを否定しているわけではないという点です。

分解が必要になるのは、こういうときです。

  • 決めたいことが明確になった
  • でも、判断材料が足りない
  • その原因を探る必要がある

この順番です。

最初から分解しない。
決めるために、分解する。

ここを逆にすると、必ず迷子になります。

先に決めるべきこと

虎の穴で、最初に必ず聞く質問があります。

「今、社長が決めたいことは何ですか?」

  • 売上を伸ばすのか
  • 利益を残すのか
  • 体制を変えるのか

これが決まって初めて、

「その判断に必要な数字は、どれですか?」

と進みます。

管理会計は、
表づくりではなく、意思決定設計なのです。

分解は、手段であって目的ではない

ここまでの話を、
一言でまとめます。

分解は、分かるためにするものではない。
決めるために、必要な分だけ行うものだ。

数字が増えて苦しくなっているなら、
それはあなたのせいではありません。

管理会計の使い方が、社長業とズレているだけです。

虎の穴は、
細かさよりも、構造を。
理解よりも、判断を。

そのスタンスで、
管理会計を再定義していきます。

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これを読むと、
「見る数字」が確実に変わります。

今日の一言

管理会計で一番やってはいけないのは、“分解すること”ではない。
“分解すれば分かる”と思い込むことだ。


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