
――税理士に任せている、という幻想・第1回――
「うちは大丈夫。税理士に任せているから」
社長と数字の話をすると、
かなりの確率で、この言葉が出てきます。
「経理は、税理士に全部任せているので」
「数字は専門家が見てくれていますから」
「そこはプロに任せています」
一見すると、
とても合理的で、安心感のある言葉です。
でも、少し話を続けると、
多くの社長が、こんな表情になります。
なんとなく不安
でも、何が不安かは説明できない
今日は、その正体を掘り下げていきます。
税理士に任せている=安心、とは限らない
最初に、誤解のないように言っておきます。
税理士に任せること自体は、悪いことではありません。
むしろ、
- 記帳
- 申告
- 税務対応
をプロに任せるのは、
とても正しい判断です。
問題は、
「任せている」という言葉の中身です。
「任せている」と「丸投げしている」は、まったく違う
多くの社長が使う
「税理士に任せている」という言葉。
これ、実は
2つの意味が混ざっています。
- 役割分担として任せている
- 分からないから任せきっている
後者の場合、
安心ではなく、一時的な思考停止に近い。
【ケース①】決算書は毎年届く。でも…
ある社長の話です。
毎年、決算が終わると
分厚い決算書が届きます。
税理士からは、
「今期はこんな感じです」
「税金はこれくらいですね」
と、簡単な説明。
社長はうなずき、
こう言います。
「分かりました。お願いします」
でも実は、
こう感じていました。
正直、ほとんど分かっていない
でも、今さら聞けない
この状態で、
社長は「任せている」と言います。
でも、心の奥では、
ずっとモヤモヤしている。
不安の正体①:数字の意味が、自分の言葉になっていない
税理士の説明は、
基本的に「正しい」です。
でも、
- なぜそうなったのか
- それで経営はどうなのか
- 次に何を考えればいいのか
ここまでは、
語られないことが多い。
すると数字は、
- 過去の結果
- 税金計算の材料
で止まります。
社長にとって一番欲しい
**「未来へのヒント」**が、見えない。
不安の正体②:「聞いていいのか分からない」関係性
税理士は専門家です。
だからこそ、社長はこう思ってしまいます。
- こんなこと聞いたら失礼かな
- 初歩的すぎるかな
- 忙しそうだし
その結果、
質問はどんどん減っていきます。
そして、
分からないまま関係だけが続く。
【ケース②】黒字なのに、お金が増えない
別の社長の話です。
決算書を見ると、
毎年しっかり黒字。
税理士からも
「問題ありませんよ」と言われる。
でも、通帳を見ると、
お金が残らない。
この違和感を、
社長はこう処理します。
税理士が大丈夫と言っているし…
自分が気にしすぎなのかな
でも本当は、
一番大事な感覚が、無視されている。
税理士は「守る人」、社長は「攻める人」
ここで、とても大切な視点を。
税理士の主な役割は、
- 法令を守る
- 税務リスクを避ける
- 過去の数字を正しくまとめる
いわば、
守りのプロです。
一方、社長の仕事は、
- 判断する
- 未来を描く
- リスクを取る
攻めの仕事です。
役割が違う。
だから、見ている数字も違う。
「任せているのに不安」なのは、むしろ正常
ここで、
安心してほしいことがあります。
税理士に任せているのに
不安を感じる社長は、
- 勉強不足でも
- 無能でも
- 間違ってもいません
むしろ、
経営者として健全です。
なぜなら、
経営判断を、
他人に丸投げできない感覚
が残っているから
管理会計の虎の穴が見る「危険な状態」
本当に危険なのは、
こういう状態です。
- 税理士に任せている
- 不安も感じなくなった
- 数字を見なくなった
これは安心ではなく、
思考停止です。
税理士と「対等に話せる社長」になる必要はない
よくある誤解があります。
「税理士と対等に話せるくらい、
数字を理解しなければならない」
そんな必要はありません。
必要なのは、ただ一つ。
自分の経営判断に、
使える形で数字を見ること
「任せる」と「使う」を切り分ける
ここが、
今回の一番重要なポイントです。
- 税務・申告 → 任せる
- 経営判断 → 自分で使う
この切り分けができると、
税理士との関係は
一気に健全になります。
管理会計は「税理士の代わり」ではない
管理会計は、
- 税理士を疑うためのものでも
- 仕事を奪うものでもありません
社長が、自分の判断に自信を持つための道具です。
税理士に任せながら、
社長は社長の数字を持つ。
それが、
一番強い状態です。
今日の一言
「税理士に任せているのに不安」
それは弱さではない。
経営者として、
まだ思考を手放していない証拠だ。
