― 価格競争から抜け出すためのポジショニング再設計|第1回目(全6回) ―
「ちゃんと差別化しているのに、なぜか安くしないと売れない」
「うちは他社よりも〇〇が強みなんです」
「品質も高いし、サービスも手厚い」
「だから価格では勝負したくない」
そう思っている経営者は、決して少なくありません。
むしろ、ほとんどの中小企業・小規模事業者は“差別化しよう”と本気で努力しています。
それでも現実はどうでしょうか。
- 相見積もりになる
- 最後は「もう少し安くなりませんか?」と言われる
- 値下げすると売れるが、利益が残らない
- 値上げすると、途端に選ばれなくなる
そして、こんな言葉が口をついて出ます。
「結局、価格でしか判断されないんですよね…」
ですが、ここで一つ、少し意地悪な問いを投げてみます。
本当に“差別化”はできているのでしょうか?
それとも、差別化しようとすればするほど、価格競争に近づいてしまっているのでしょうか。
実は多い「差別化=足し算」という勘違い
多くの現場で見かけるのが、次のような差別化の考え方です。
- 機能を増やす
- メニューを増やす
- 対応範囲を広げる
- サービスを手厚くする
- 何でもできます、と言えるようにする
要するに、「他より優れている点を増やそう」という発想です。
一見すると、とても正しそうに見えます。
実際、努力もしていますし、現場は忙しくなります。
ところが、ここに価格競争への落とし穴があります。
なぜなら──
その足し算の差別化は、ほぼ確実に“比較される土俵”に乗ってしまうからです。
比較される時点で、勝負はもう決まっている
お客さんがサービスを選ぶとき、何が起きているか。
少し、購買の瞬間を想像してみてください。
- A社:〇〇ができて、△△もできて、価格は10万円
- B社:〇〇ができて、△△もできて、□□もできて、価格は12万円
- C社:〇〇ができて、△△もできて、価格は9万円
このとき、お客さんの頭の中では、
「どこが一番コスパがいいか」という比較が始まります。
つまり、
- 差別化ポイントが「機能」「サービス内容」「対応範囲」のように
- 横並びで比較できる要素である限り
最後に残る判断軸は、ほぼ価格になるのです。
ここで重要なのは、
「比較される=悪」ではないということ。
問題なのは、
“価格で比較されやすい形でしか差別化できていない”ことです。
ケース①:真面目なリフォーム会社が陥った罠
ある地域密着型のリフォーム会社の話です。
この会社は、とても真面目でした。
- 見積もりは丁寧
- 説明も分かりやすい
- 工事の品質にも自信がある
- アフターフォローも手厚い
そのため、こう考えました。
「うちは“安心・丁寧・高品質”で差別化しよう」
そして、ホームページにも、チラシにも、
その言葉をしっかりと打ち出しました。
結果はどうなったか。
相見積もりには必ず呼ばれる。
でも、最後は少し安い業者に負ける。
社長は言いました。
「ちゃんと説明してるし、品質も違うのに、結局値段なんですよね…」
しかし、冷静に見ると──
競合他社も全員“安心・丁寧・高品質”を名乗っていたのです。
つまり、
差別化したつもりが、全員同じ言葉で横並びになっていた。
この瞬間、勝負は「価格」しか残りません。
差別化すればするほど、競合が増える不思議
もう一つ、よくある現象があります。
「差別化しよう」と思えば思うほど、競合が増えたように感じる。
なぜか。
それは、
市場のど真ん中で、みんなと同じ基準で目立とうとしているからです。
- 高品質
- 低価格
- スピード対応
- 豊富な実績
- 親切・丁寧
これらはすべて、
「誰もが言える差別化」です。
そして誰もが言えるものは、
誰の差別化にもなりません。
結果として、
- 比較され
- 値引きを求められ
- 断ると他社に流れ
という、消耗戦に巻き込まれていきます。
問題は「差別化が足りない」ことではない
ここまで読んで、
「じゃあ、もっと尖らないとダメなのか」
「もっと強烈な個性が必要なのか」
と思った方もいるかもしれません。
ですが、ここでお伝えしたいのは、
問題は“差別化の量や強さ”ではないということです。
本当の問題は、
差別化の“方向”が間違っていること。
具体的には、
- 「他と違うことを言おう」とする
- 「優れている点を足そう」とする
- 「選ばれる理由を増やそう」とする
この発想そのものが、
価格競争に近づく構造を生んでいるのです。
ポジショニングとは「違いを作ること」ではない
ここで、ポジショニングについて
一度、定義を整理しておきましょう。
ポジショニングとは、
「自社の立ち位置を、相手の頭の中にどう作るか」です。
つまり、
- 何ができるか
- どれだけ優れているか
よりも先に、
- 「誰の、どんな状況のときに、真っ先に思い出される存在か」
が問われます。
この視点が抜けたまま差別化を考えると、
どうしても比較される土俵に乗ってしまいます。
ケース②:「誰にでも対応できます」が生む地獄
別の事例です。
あるIT系の個人事業主は、こう言っていました。
「うちは小規模事業者向けに、何でも対応できます」
会計、販売管理、在庫、業務改善、補助金サポート…。
確かに、スキルは幅広い。
しかし現実は、
- 問い合わせは来る
- でも「他社より高い」と言われる
- 最後は価格勝負になる
なぜか。
“誰にでも”対応するということは、
“誰にとっても決定打にならない”からです。
結果として、
「じゃあ一番安いところでいいか」
という判断に直結します。
価格競争から抜け出す第一歩は「差別化を疑うこと」
ここまでの話をまとめると、
少し逆説的な結論になります。
価格競争から抜け出したいなら、
まず“差別化しよう”という考えを疑うこと。
差別化そのものが悪いわけではありません。
しかし、
- 足し算の差別化
- 比較前提の差別化
- 「他より良い」を証明する差別化
は、ほぼ確実に価格競争を呼び込みます。
本当に必要なのは、
「比べられない位置」に立つこと。
そのための考え方が、
このシリーズで扱うポジショニング再設計です。
次回予告:なぜ「数字から考えるポジショニング」は行き詰まるのか
次回は、
多くの経営者が無意識にやってしまっている、
- 市場規模
- 単価
- 客数
- シェア
といった
「数字からポジショニングを考える」アプローチが、
なぜ途中で行き詰まるのかを掘り下げます。
「理屈は合っているはずなのに、なぜか現場が動かない」
その理由が、見えてくるはずです。
今日の一言
差別化とは、“他より優れること”ではない。
比べられない場所に立つための、
立ち位置の設計である。
