④ポジショニングワークを“改善フェーズ”でやってはいけない理由


─ 勘違いから抜け出すポジショニング思考|第4回目(全4回) ─

「改善すれば良くなる」は、本当か?

多くの経営者と話をしていると、こんな言葉をよく耳にします。

「まずは今のやり方を改善してから、次を考えよう」
「数字が悪いのは、どこかに無駄やムラがあるはずだ」

一見すると、とても真っ当で、誠実な姿勢に聞こえます。
実際、改善そのものが悪いわけではありません。
むしろ、改善は経営にとって不可欠な営みです。

ただし——。

“あるワーク”だけは、改善フェーズでやってはいけない。

それが、このシリーズで扱ってきた「ポジショニングを定義するためのワーク」です。

今回は、その理由を正面から掘り下げます。

なぜ順番を間違えると詰むのか。な
ぜ良かれと思った改善が、経営を袋小路に追い込むのか。

その構造を、一緒に解きほぐしていきましょう。

改善は“正解を前提にする作業”である

まず大前提として整理しておきたいことがあります。

改善とは何か?

それは、
「今やっていることは大きく間違っていない」
という前提に立った作業です。

・工程を少し短くする
・無駄なコストを削る
・オペレーションを効率化する
・提案資料をブラッシュアップする

これらはすべて、
「方向性は合っている」という暗黙の合意があって
初めて意味を持ちます。

逆に言えば——

方向性そのものがズレていた場合、
改善は“ズレを洗練させる行為”になります。

ここが、改善フェーズの一番怖いところです。

改善を頑張るほど、引き返せなくなる

よくあるケースを紹介しましょう。

ある専門サービス業の話です。

売上は横ばい、忙しさだけは年々増している。そこで経営者は考えました。

「単価が低いのは、サービスの伝え方が悪いからだ」

そこから始まったのは、改善の嵐です。

・提案書を作り直す
・説明資料を増やす
・オプションメニューを追加する
・対応範囲を広げる

結果どうなったか。

確かに仕事は増えました。紹介も増えました。
でも——利益は増えない。
むしろ、疲弊は加速しました。

なぜか。

「誰に、何を、どの立場で売るか」
というポジショニングが曖昧なまま、
改善だけを積み重ねたからです。

改善とは、積み上げ型の努力です。
積み上げれば積み上げるほど、
「ここまでやったのに、今さら変えられない」
という心理が働きます。

これが、改善フェーズの最大の罠です。

ポジショニングは“削る勇気”が必要な作業

一方で、ポジショニングを定義するワークは、
真逆の性質を持っています。

・やらないことを決める
・来なくていい顧客を決める
・売らなくていい仕事を決める
・捨てる強みを決める

つまり、減らす・絞る・切る作業です。

これを改善フェーズでやろうとすると、
必ず抵抗が生まれます。

「せっかく改善したのに、やめるの?」
「この努力は無駄だったってこと?」

違います。

努力は無駄ではありません。
ただ、使うフェーズを間違えただけです。

ポジショニングは、改善の延長線上にはありません。
むしろ、改善の積み上げを一度“疑う”ところから始まります。

「忙しいのに儲からない」は改善の副作用

改善フェーズでこのワークをやってしまった会社に、よく見られる症状があります。

それが、

「忙しいのに、なぜかお金が残らない」

という状態です。

・仕事は断らない
・要望には極力応える
・品質も悪くない
・クレームも少ない

それなのに、利益が薄い。

これは、能力の問題ではありません。努力不足でもありません。

ポジショニングが定義されないまま、
改善で“何でも屋”として磨かれてしまった結果
です。

改善は、「受けた仕事を上手にこなす力」を高めます。

しかし、

「その仕事を、そもそも受けるべきか?」

という問いには答えてくれません。

この問いに向き合うのが、ポジショニングのワークです。

小見出し⑤|改善フェーズで考えると、判断基準がズレる

改善フェーズにいるとき、経営者の頭の中はこうなりがちです。

「今の売上をどう伸ばすか」
「既存客をどう深掘るか」
「効率をどう上げるか」

これ自体は正しい。
でも、ポジショニングを考えるときの基準としては不十分です。

ポジショニングで見るべきは、

このビジネスは“生き残れる構造”か
努力が利益に変換されるか
拡張したときに破綻しないか

といった、少し先の未来です。

改善フェーズの視点は、どうしても「今」を最適化します。

その視点のままポジショニングを決めると、
将来の詰みポイントを見落とします。

このワークは「覚悟を決めるフェーズ」でやる

では、いつやるべきなのか。

答えはシンプルです。

「このやり方を、このまま続ける気はない」と腹を括ったとき

・今の延長線では、未来が見えない
・頑張れば回るが、楽にはならない
・このまま年を重ねるのは怖い

そう感じた瞬間こそ、ポジショニングを定義するワークの出番です。

このワークは、効率化の道具ではありません。

経営者が「どこで戦い、どこを捨てるか」を決めるための思想整理です。

改善フェーズでやると軽く見え、転換フェーズでやると重く刺さる。

それが、このワークの正体です。

本シリーズのまとめとして

本シリーズでは、一貫して「よくある勘違い」を扱ってきました。

・差別化=付加価値アップではない
・ポジショニングと利益構造は切り離せない
・価格競争に戻る会社には共通点がある

そして最後にたどり着いたのが、

「やるタイミングを間違えると、全部ズレる」

という話です。

ポジショニングは、魔法の改善策ではありません。

だからこそ、正しいフェーズで、正しい覚悟で向き合う必要があります。

今日の一言

改善は、ポジションを決めてからやるもの。
ポジションを決める前に改善すると、迷子になる。


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