
――戦わない市場を決めるという戦略・第6回――
「もう少し安くなりませんか?」という一言
商談の終盤。
空気が少し変わる瞬間があります。
「正直、内容はいいんですが……
もう少し安くなりませんか?」
この一言に、
- 心がざわつき
- 判断が揺らぎ
- 条件を考え始める
そんな経験、ありませんか?
値下げは、価格の問題ではない
多くの社長はこう考えます。
「値下げするか、しないか」
でも実は、
ここがもうズレています。
値下げの話は、
- 価格の話
- 利益率の話
ではなく、
市場の話
なのです。
値下げが起きる瞬間に、何が起きているのか
お客さんが値下げを求めるとき、
頭の中では、こんな判断が行われています。
- 他社と比較できる
- 違いが分からない
- 決め手が価格しかない
つまり、
「同じもの」に見えている
ということ。
値下げしない会社は、比較されていない
一方で、
値下げをほとんど求められない会社があります。
彼らが特別強気なわけでも、
横柄なわけでもありません。
違いは一つ。
比較の土俵に上がっていない
のです。
ケーススタディ①:価格で勝負していた会社
ある制作会社。
- ホームページ制作
- パンフレット制作
- 動画制作
一通りやっています。
見積を出すと、
必ずこう言われました。
「他社と比べて、ちょっと高いですね」
そこで、
- 値下げ
- おまけ
- 工数追加
を繰り返しました。
結果どうなったか。
- 忙しい
- 利益が薄い
- 社員が疲れる
典型的な「価格競争ゾーン」です。
問題は、価格ではなかった
この会社が直面していた問題は、
- 高いか安いか
ではありません。
市場の定義が曖昧
だったのです。
「制作会社」という市場は、
- 比較しやすい
- 差が見えにくい
- 価格で決まりやすい
非常に厳しい市場です。
市場を変えると、価格の話が消えた
そこで、この会社は市場を定義し直しました。
「採用に困っている
地方の中小企業向けに
採用特化型のコンテンツ制作を行う会社」
すると、商談が変わりました。
- 比較されない
- 価格より成果の話になる
- 値下げの話が出ない
同じ制作スキルでも、
立つ市場が違えば、価格は変わる
のです。
値下げしない会社が見ている3つのもの
では、
値下げしない会社は何を見ているのか。
大きく3つあります。
①「相場」ではなく「文脈」を見ている
値下げに悩む社長ほど、
- 相場
- 他社価格
- 平均値
を気にします。
一方、値下げしない会社は、
お客さんの置かれている状況
を見ています。
- 今、何に困っているのか
- 解決しないと何が起きるのか
- 失敗した場合のコストは何か
この文脈の中では、
価格は後回し
になります。
②「原価」ではなく「意味」を見ている
値下げ交渉の場で、
社長が心の中で考えるのは、
- この工数
- この手間
- この人件費
つまり原価です。
でもお客さんは、
原価を見ていません。
見ているのは、
それを買う意味
です。
- 不安が消える
- 判断が楽になる
- 未来が良くなる
この「意味」が伝わっていないと、
価格は高く感じられます。
③「一件」ではなく「関係」を見ている
値下げを受けるとき、
多くの社長はこう考えます。
「今回だけなら…」
でも、値下げしない会社は、
- この一件
- この取引
ではなく、
この市場での立ち位置
を見ています。
一度値下げを受けると、
- 次も求められる
- 紹介先でも同じ期待を持たれる
市場でのポジションが崩れることを、
よく分かっているのです。
値下げは、管理会計的にも危険
ここで管理会計の話を少し。
値下げは、
- 売上を下げる
- 利益率を下げる
だけではありません。
構造を壊します
- 同じ工数
- 同じ人員
- 同じ時間
で、利益だけが減る。
これは、
改善しづらい赤字
を生みます。
値下げしないために、必要なこと
値下げしないために必要なのは、
- 強気
- 根性
- 交渉術
ではありません。
必要なのは、
「ここでやっています」と言える市場
です。
- 誰向けか
- 何に特化しているか
- なぜ自社なのか
これが言語化されていれば、
価格は、説明しなくても納得される
ようになります。
値段の前に、立ち位置を決める
価格は、
- 最後に決めるもの
- 交渉するもの
ではありません。
市場の結果
です。
市場をどう定義したかで、
価格はほぼ決まります。
「高いですね」と言われたら
もし、商談で
「高いですね」
と言われたら、
こう考えてみてください。
価格の説明が足りないのではなく、
市場の説明が足りなかったのではないか
と。
戦わない市場では、値下げは起きない
このシリーズのテーマに戻ります。
戦わない市場を決める
とは、
- 値下げで勝つ
- 交渉で勝つ
ではなく、
値下げが必要ない場所に立つ
ということ。
今日の一言
値下げしない会社は、価格を見ていない。
自分が立つ市場と、お客さんの文脈を見ている。
値段は、戦略の結果である。
