③分岐点を知ると、投資判断が変わる


「儲かりそう」で決める投資ほど、危ないものはない

「この設備、入れたら売上が伸びそうなんですよね」
「広告をもう少し打てば、お客さん増えると思うんです」

経営者の方と話していると、こうした言葉をよく耳にします。
もちろん、直感や経験は大切です。

しかし一方で、投資判断を“感覚”だけでしてしまうことが、
後々じわじわと経営を苦しめるケースも少なくありません。

投資とは、本来「未来の利益を増やすため」に行うものです。
それなのに、結果として

  • 売上は増えたのに、なぜかお金が残らない
  • 忙しくなっただけで、社長が疲弊した
  • 固定費が増えて、身動きが取れなくなった

こんな状況に陥ってしまう。
その背景には、ある共通点があります。

それが、分岐点を意識しないまま投資をしているということです。

分岐点を知らない投資は、「賭け」に近い

分岐点とは、
「売上がいくらあれば、利益も損失もゼロになるか」
という境目のことでした。

第1回・第2回でお伝えしてきたように、分岐点は単なる計算式ではありません。
それは、
自社のビジネスが“どこから先で報われるのか”を示すライン
でもあります。

ところが、この分岐点を把握しないまま投資を行うと、どうなるでしょうか。

  • その投資によって、分岐点は上がるのか、下がるのか
  • 分岐点を超える売上を、本当に作れるのか
  • 超えるまでに、どれくらいの時間がかかるのか

これらを考えないまま決断する投資は、
冷静に言えば「勝算を見ない賭け」に近い状態です。

固定費が増える投資は、分岐点を押し上げる

まず大前提として押さえておきたいのが、
投資の多くは、分岐点に影響を与えるという事実です。

特に注意が必要なのが、固定費が増える投資です。

固定費が増える代表的な投資

  • 人員増加(正社員採用など)
  • 家賃の高い場所への移転
  • リース契約を伴う設備投資
  • 毎月固定でかかる広告費

これらはすべて、
売上がゼロでも発生するコストを増やします。

固定費が増えるということは、
「何もしなくても超えなければならない分岐点が高くなる」
ということです。

つまり、
投資をした瞬間から、経営のハードルは上がる
ということでもあります。

ケース①:人を増やしたら、なぜか苦しくなった会社

ここで、よくあるケースを見てみましょう。

あるサービス業の話

売上は月300万円ほど。
忙しくなってきたため、社長は社員を1名増やす決断をしました。

  • 人件費(社会保険含む):月40万円
  • その他の固定費は変わらず

社長の頭の中では、
「人が増えれば仕事をもっと受けられる → 売上が増える」
というイメージがありました。

しかし、実際にはどうなったか。

  • 新人教育に時間がかかる
  • 社長の手が余計に取られる
  • 売上はすぐには増えない

結果として、
分岐点だけが先に40万円分引き上げられた状態になりました。

売上はまだ変わらないのに、
「利益が出るライン」だけが遠ざかったのです。

分岐点を知っていれば、見える“別の選択肢”

もし、この社長が投資前に分岐点を意識していたら、どうでしょうか。

例えば、こんな問いが生まれます。

  • この人を雇ったことで、月いくらの売上増が必要か?
  • その売上は、何カ月後に実現できそうか?
  • それまで会社は耐えられるか?

こうした問いに向き合うことで、
「今すぐ正社員を雇う以外の選択肢」
が見えてくることもあります。

  • 繁忙期だけ外注する
  • 業務を減らして単価を上げる
  • 先に広告や導線を整えてから採用する

分岐点を知るとは、
投資の是非を“冷静に比較できる状態になること”
でもあるのです。

ケース②:設備投資が「正解」になる瞬間

一方で、分岐点を理解した上での投資は、
経営を一段引き上げる武器にもなります。

製造業の事例

ある小規模製造業では、
手作業が多く、作れる数量に限界がありました。

社長は設備投資を検討します。

  • 新設備のリース料:月30万円
  • 人件費は削減できない
  • 生産能力は1.5倍に

ここで社長が考えたのは、
「この30万円分の固定費増を、どこで回収するか」
でした。

  • 受注単価を少し上げられないか
  • 生産数を増やして売上を伸ばせないか
  • 稼働率はどれくらい見込めるか

結果、
分岐点を超える売上を安定して作れる見通しが立ったため、
設備投資を実行。

投資後は、

  • 分岐点は上がった
  • しかし、それ以上に粗利が伸びた

結果として、利益体質へと変わっていきました。

投資判断で見るべきは「回収できるか」ではない

投資の話になると、よくこんな言葉が出てきます。

「この投資、何年で回収できますか?」

もちろん、回収期間は重要です。
しかし、それ以上に大切なのは、
分岐点との関係です。

見るべき問いは、むしろこちらです。

  • この投資で、分岐点はどう変わるか?
  • 分岐点を超える売上を、現実的に作れるか?
  • 超えた後、どれくらい利益が残る構造か?

回収できるかどうか以前に、
そもそも分岐点を越えられなければ、回収の土俵にすら立てません。

分岐点は、投資判断の「共通言語」になる

分岐点を理解すると、
社内外のコミュニケーションも変わってきます。

  • 銀行との会話
  • 幹部や社員との相談
  • 家族への説明

感覚的な「いけそう」「たぶん大丈夫」ではなく、
「ここを超えられれば、会社は安定する」
という言葉で説明できるようになります。

これは、
経営者自身の覚悟を固めるための言葉
でもあります。

分岐点を軸に考えると、投資は怖くなくなる

投資が怖いのではありません。
怖いのは、
分からないまま決めることです。

分岐点を知っていれば、

  • 上がるリスク
  • 下げる工夫
  • 越えるための打ち手

をセットで考えられます。

つまり、
投資は「当たるか外れるか」ではなく、
「設計できるもの」に変わるのです。

今日の一言

投資判断が変わるのは、数字を知ったときではない。
分岐点を“自分の言葉で説明できたとき”からだ。


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