
― 「昨日はOK、今日はNG」が起きる本当の理由 ―
「それ、前はOKって言ってませんでした?」
現場から、こんな一言を言われたことはありませんか?
- 「前回は通ったのに、今回はダメなんですね」
- 「結局、どういう基準なんでしょうか?」
- 「社長の気分次第ってことですか?」
言われた瞬間、胸がチクっとします。
そして多くの社長は、こう返します。
「いや、そういうわけじゃないんだけど…今回は状況が違って」
このやり取り、実はとても危険です。
なぜならこれは、
会社の中に“判断基準が存在していない”サイン
だからです。
判断がブレる会社で、何が起きているのか
判断基準がない会社では、日常的にこんなことが起きます。
- 同じような相談なのに、結論が毎回違う
- 誰に聞くかで答えが変わる
- 最後は「社長の一言待ち」になる
そして現場は、こう学習します。
「どうせ基準はない」
「最後は社長の感覚」
「自分で考えるより、聞いた方が早い」
結果どうなるか。
- 判断は社長に集中
- 社長はさらに忙しくなる
- 現場は判断しなくなる
これは能力の問題ではありません。
構造の問題です。
「判断基準」とは、ルールブックではない
ここで一つ、誤解を解いておきましょう。
判断基準というと、多くの人がこう考えます。
- 分厚いマニュアル
- 細かいルール
- 例外のない決まりごと
でも、それは違います。
経営における判断基準とは、
迷ったときに、どこに立ち戻るか
を決めておくことです。
完璧な答えを用意することではありません。
ブレない軸を用意することです。
なぜ、人は「基準なし」で判断してしまうのか
ではなぜ、多くの会社には判断基準がないのでしょうか。
理由はシンプルです。
- これまで、なんとかなってきた
- 社長の経験と勘で回ってきた
- 言語化・数値化する必要がなかった
特に創業期や少人数の会社では、
社長の頭の中に基準がある状態でも回ります。
問題は、こういう段階に入ったときです。
- 人が増えた
- 相談件数が増えた
- 社長が全部を見るのが物理的に無理になった
このタイミングで基準がないと、
一気に歪みが出ます。
ケーススタディ|D社で起きていた「判断の混乱」
従業員30名ほどのD社。
業績は悪くありません。
ただ、社内はいつもザワついていました。
- 「A案件は通ったのに、B案件はなぜダメ?」
- 「部門によって対応が違う」
- 「結局、社長に聞かないと分からない」
社長本人は、こう言っていました。
「ちゃんと考えて判断してるんですけどね…」
実際そうなのです。
一つひとつの判断は、間違っていない。
問題は、
判断の“理由”が共有されていなかったこと。
社長の頭の中では、
- 利益率
- 将来性
- 今の余力
といった要素を総合して判断していました。
でも、それが
言葉にも、数字にもなっていなかった。
だから現場から見ると、
「基準がコロコロ変わる会社」
に見えていたのです。
判断基準がないと、社長自身も苦しくなる
この状態、一番つらいのは誰でしょうか。
実は、
社長本人です。
- 毎回、判断理由を考え直す
- 過去の判断と整合性を取る
- 後から「本当にあれで良かったのか」と悩む
つまり、
社長自身が、自分の判断を信じきれない状態
になります。
これは、かなり消耗します。
判断基準がないとは、
社長が自分の軸を外に出していない状態
なのです。
判断基準は「数字」で固定する
では、どうすればいいのか。
答えは明確です。
判断基準を、数字で固定する
なぜ数字なのか。
- 感覚よりもブレにくい
- 他人と共有できる
- 後から検証できる
からです。
例えば、こんな形です。
- 利益率が○%以上ならOK
- 投資回収が○年以内ならGO
- このKPIを下回ったら見直す
大事なのは、
完璧な数字を探すことではありません。
「今の自分たちは、
何を優先して判断する会社なのか」
を、数字で“仮決め”することです。
「でも、数字だけでは決められない」問題
ここで、必ず出てくる反論があります。
「経営は数字だけじゃないですよね?」
はい、その通りです。
- 人の気持ち
- タイミング
- 将来の可能性
数字に表れない要素は、確実にあります。
ただし、ここで大事なのは順番です。
❌ 数字も見る、感覚も見る、雰囲気も見る
⭕ まず数字で線を引き、最後に感覚を使う
判断基準を数字で置くのは、
感覚を排除するためではありません。
感覚を使う“範囲”を決めるため
です。
正解が変わる会社/変わらない会社の違い
ここで、両者を比べてみましょう。
判断基準がない会社
- 状況説明が毎回長い
- 「今回は特別」が多い
- 決断後もモヤモヤが残る
判断基準がある会社
- 判断が早い
- 説明がシンプル
- 現場が納得しやすい
重要なのは、
判断の中身が100点かどうかではありません。
判断の“再現性”があるかどうか
です。
判断基準を決めることは、社長の覚悟を示すこと
最後に、少しだけ踏み込んだ話をします。
判断基準を決めるということは、
- 何を優先する会社なのか
- 何を犠牲にする可能性があるのか
を、社長自身が引き受けるということです。
だから怖い。
だから先延ばしになる。
でも、ここを曖昧にしたままでは、
- 社長は永遠に判断から解放されない
- 組織は社長待ちから卒業できない
のです。
次回予告
社長がいなくても回る会社は、何を確認しているのか
― 「決めた通りに回っているか」を見るだけの仕事へ ―
今日の一言
判断がブレるのは、能力の問題ではない。
「戻る基準」を決めていないだけだ。
