
―「捨てる」のではなく、「守る」ための市場選定―
「市場を絞りましょう」
この一言を聞いた瞬間、
多くの社長の頭の中には、同じ映像が浮かびます。
- 売上が減るのではないか
- 既存のお客さんを失うのではないか
- 仕事が来なくなったらどうしよう
そして、こう思うのです。
「分かっているけど、怖い」
この感覚は、間違いでも弱さでもありません。
むしろ、真剣に会社を守ろうとしている社長ほど、
この恐怖を強く感じます。
今回は、事業構造転換で必ず立ち止まるこのテーマ、
「市場を絞るのが怖い」という社長の本音に、
正面から向き合っていきます。
なぜ「市場を絞る」と聞くだけで、心がザワつくのか
まず整理しておきたいのは、
社長が怖がっている“正体”です。
多くの場合、恐れているのは、
- 市場を絞ること
ではなく - 今ある売上が失われること
です。
つまりこれは、
未来への挑戦への恐怖ではなく、
現在を失う不安なのです。
社長にとって今の売上は、
- 従業員の生活
- 家族の安心
- 自分の責任
すべてを背負った数字です。
簡単に「減らしていい」とは思えなくて当然です。
「市場を絞る=捨てる」という誤解
ここで、非常に大きな誤解があります。
それは、
市場を絞る=顧客を切り捨てる
というイメージです。
ですが、実際の市場選定は、
もっと現実的で、もっと静かな作業です。
- 断る顧客を決める
のではなく - 力を入れる顧客を決める
この違いは、思っている以上に大きい。
ケース① 何でも屋で疲弊していた社長の話
あるサービス業の社長は、こう言っていました。
「うちは、何でもやります。
頼まれたら断れない性格なんで」
実際、売上はそこそこありました。
でも、
- 利益は残らない
- 社長は常に現場
- 仕事は増えるが楽にならない
典型的な“頑張っているのに苦しい会社”です。
この社長に「市場を絞りましょう」と伝えると、
返ってきた言葉はこうでした。
「いや、それは怖いです。
今の売上を捨てる余裕はありません」
そこでやったのは、
市場を切ることではありません。
- 利益が出ている顧客
- 社長が説明しなくても進む仕事
- リピート率が高い案件
これを「主戦場」として定義しただけでした。
結果どうなったか。
- 仕事量はほぼ同じ
- 社長の稼働は減少
- 利益率は上昇
市場を絞ったのに、
会社はむしろ安定したのです。
市場を絞る本当の目的は「戦える場所」を決めること
市場選定の目的は、
売上を減らすことでも、効率化でもありません。
「勝てる場所で戦う」ためです。
どんな会社にも、
- 勝ちやすい市場
- 勝ちにくい市場
があります。
問題は、多くの会社が、
全部の市場で、同じ熱量で戦おうとしていること。
これでは、体力がいくらあっても足りません。
「全部やる会社」が一番不利になる理由
市場を絞らない会社は、一見強そうに見えます。
- 仕事の幅が広い
- 断らない
- 柔軟
でも実際には、こんな構造になります。
- 説明コストが高い
- 業務が標準化しない
- 人が育たない
- 社長が判断し続ける
結果、
規模が大きくなるほど、苦しくなる。
これは能力の問題ではなく、
構造の問題です。
社長が本当に怖いのは「選択の責任」
もう一段深く掘ります。
市場を絞るとき、
社長が本当に怖いのは、これです。
「自分で選んだ結果、失敗したらどうしよう」
全部やっていれば、
うまくいかなくても言い訳ができます。
- 市場が悪かった
- 景気が悪かった
- たまたまだ
でも、絞った瞬間、
結果はすべて「自分の判断」になる。
この重さが、社長を止めます。
ケース② 「決めなかった」ことで失ったもの
別の会社では、
市場選定を先送りし続けました。
- 今は忙しい
- もう少し様子を見る
- 来期考えよう
その結果、
- 社長の判断業務は増え続け
- 若手は育たず
- 社長自身が疲弊
最終的に起きたのは、
「選ばなかったことによる、自然な衰退」
市場は、選ばなくても、
勝手に狭まっていきます。
ただし、
そのとき主導権は、社長にはありません。
市場を絞るとは「未来の自分を助ける行為」
ここで、視点を変えてみてください。
市場を絞るとは、
- 今日の売上を切ること
ではなく - 未来の社長の時間と判断力を守ること
です。
- 説明しなくていい仕事
- 任せられる業務
- 数字で管理できる構造
これを作るための、最初の一歩が市場選定です。
絞るときにやってはいけない3つのこと
最後に、注意点も押さえておきましょう。
① 感覚だけで決める
「好き」「得意」だけでは不十分。
数字と現実を必ず見る。
② 一気に全部切ろうとする
段階的でOK。
「今はここに力を入れる」で十分。
③ 社内に説明しない
なぜ絞るのか。
これを共有しないと、現場が混乱します。
市場選定は「勇気」ではなく「設計」
市場を絞る社長は、
勇気があるわけではありません。
構造を理解しているだけです。
- どこで勝てるか
- どこで消耗するか
これを冷静に見極めただけ。
怖さがゼロになることは、ありません。
でも、怖いまま進めるのが社長の仕事です。
今日の一言
市場を絞るのは、捨てるためではない。
社長と会社を、長く生き残らせるための選択だ。
次回は、
「選ばれる理由が分からない社長へ(STEP2)」
に進みます。
