
― 「全部見ているのに、なぜか決められない」の正体 ―
数字は見ている。なのに、決められない
「数字は、ちゃんと見ているんです」
これは、多くの社長が口にする言葉です。
売上表も見ている。
試算表も確認している。
場合によっては、KPIの一覧表まで揃っている。
それなのに、実際の経営判断では、こんな声が聞こえてきます。
- 「数字は悪くないはずなんだけど…」
- 「もう少し様子を見ようか」
- 「感覚的には、今じゃない気がする」
もしあなたが、
「数字を見ているのに、判断に迷う」
状態にあるとしたら、それは異常でも失敗でもありません。
むしろ、
👉 “数字を見すぎている”可能性
があります。
社長が判断できなくなる瞬間
少し想像してみてください。
あなたの目の前に、こんな資料が並んでいます。
- 月別売上推移
- 商品別売上
- 原価率
- 人件費
- 広告費
- 来店数
- 客単価
- リピート率
数字としては、とても立派です。
でも、いざ「次に何をするか」を決めようとすると、手が止まる。
なぜか。
それは、
数字が“判断材料”ではなく、“情報の山”になっているからです。
数字は「多いほど良い」という思い込み
多くの社長が、無意識にこんな思い込みを持っています。
数字は、たくさん見ておいた方が安心
何かあったとき、説明できる
見ていないより、見ている方が正しい判断ができる
気持ちは、よく分かります。
でも実はこれ、
判断という行為においては逆効果になることが多いのです。
なぜなら、人は、
- 見る数字が増えるほど
- 比較軸が増え
- 重要度の判断が難しくなる
からです。
判断とは「選ぶこと」ではなく「捨てること」
ここで、とても大事な話をします。
経営判断とは、
「最適な答えを選ぶこと」ではありません。
本質は、
今は見ない数字を決めること
です。
数字を全部見てから判断しようとすると、
判断は永遠に終わりません。
なぜなら、
数字は必ず「矛盾したサイン」を出すからです。
- 売上は伸びているが、利益率は下がっている
- 客数は減っているが、客単価は上がっている
- 今月は好調だが、前年同月比では微妙
全部を同時に満たす判断など、存在しません。
ケーススタディ|C社長の「数字迷子」状態
ここで、よくあるケースをご紹介します。
従業員20名ほどのC社長。
管理資料は非常に充実していました。
- 月次の損益計算書
- 部門別の数字
- KPI一覧
- 週次レポート
ただし、本人はこう言います。
「資料は揃っているんですけど、
どれを見て判断すればいいのか、分からなくて…」
実際、意思決定はこうなっていました。
- 新しい施策をやるか迷う
- 判断が遅れる
- 結局、前年踏襲
原因は明確でした。
👉 「社長として見る数字」が決まっていなかった
のです。
「見る数字」と「管理する数字」は違う
ここで、決定的に重要な考え方をお伝えします。
数字には、2種類あります。
① 社長が「見る」数字
- 判断のために見る
- OK/NGを決めるために見る
- 迷ったときに立ち戻る数字
これは、ごく少数でいい。
② 現場が「管理する」数字
- 日々改善するための数字
- 詳細な分析用
- 原因追及のための数字
こちらは、多くて構いません。
多くの会社では、この2つがごちゃ混ぜになっています。
結果として、
社長が「管理用の数字」に埋もれ、
判断できなくなるのです。
社長が見るべき数字は、意外と少ない
では、社長は何個くらいの数字を見ればいいのか。
これは業種や規模にもよりますが、
原則として、
3〜5個程度
で十分です。
例えば、
- 売上
- 利益(または粗利)
- キャッシュに関わる指標
- 最重要KPI
これくらいでいい。
大事なのは、
「なぜその数字を見るのか」を説明できることです。
「なんとなく見ている数字」は、
判断を鈍らせるだけです。
「全部見ないと不安」は、優秀な社長の証拠
ここで、少し社長を擁護しておきます。
数字をたくさん見ている社長ほど、
- 勉強熱心
- 真面目
- 責任感が強い
だからこそ、
「見落としがあったら怖い」
「判断ミスをしたくない」
と思い、数字を集めます。
でも皮肉なことに、
見れば見るほど、判断が遅くなる。
これは能力の問題ではなく、
構造の問題です。
数字を「減らす」のは、勇気がいる
ここで、多くの社長が立ち止まります。
「本当に、そんなに減らして大丈夫なのか?」
「何か見落とさないか?」
結論から言うと、
減らさない限り、判断は変わりません。
大切なのは、
- すべてを把握すること
ではなく - 判断を早く、再現できること
だからです。
数字を減らすとは、
サボることではありません。
“社長の視点を固定する”こと
なのです。
「見る数字を絞る」は、立派な意思決定
前回の記事でお伝えしたように、
社長の最初の仕事は、
- 決めることを決める
でした。
今回のテーマは、その次の段階。
見る数字を決める
これも、立派な意思決定です。
しかも一度決めてしまえば、
- 毎回悩まない
- 判断がブレない
- 周囲も迷わない
という効果があります。
次回予告
判断基準がない会社では、正解が毎回変わる
― 「数字で基準を固定する」という次の一手 ―
今日の一言
社長が判断できなくなるのは、
数字が足りないからではない。
“見る数字”が決まっていないからだ。
