
――数字の前に、社長の軸を作る・第10回――
理念で終わる社長と、数字に変えられる社長の決定的な差
ここまで、このシリーズでは一貫して
「数字の前に、社長の軸が必要だ」
という話をしてきました。
ただ、最終回でひとつ厳しい現実をお伝えすると、
理念を語れるだけの社長
= 経営がうまくいく社長
ではありません。
実務の現場では、こういう声をよく聞きます。
- 理念は立派だけど、現場は迷っている
- 方針はあるが、数字の判断がブレる
- いいことを言うが、結局どこを目指すのか分からない
原因はシンプルです。
理念が「数字の言葉」に翻訳されていない
ここを越えられるかどうかが、
社長としての次のステージを分けます。
数字を語れない理念は「飾り」になる
理念そのものは、
どんなに抽象的でも構いません。
問題は、
- 売上目標
- 利益水準
- 投資判断
- 撤退基準
といった具体の数字に落ちてきた瞬間に、
理念が消えてしまうことです。
例えば、
「お客さんに寄り添う会社でありたい」
と掲げながら、
- 無理な納期を詰める
- 価格を理由に品質を落とす
- クレーム対応の工数を削る
これでは、
理念は「きれいな言葉」で終わる
社長がやるべき仕事は、
理念を掲げることではなく、
理念を数字で“使える状態”にすること
です。
「理念 × 数字」は、足し算ではなく翻訳作業
ここで大事な認識転換があります。
理念と数字は、
- 別物を無理にくっつける
- 抽象と具体を妥協させる
ものではありません。
正確には、
理念を、数字という言語に翻訳する
という作業です。
英語の文章を日本語に訳すとき、
- 単語を直訳する
- 文脈を無視する
とうまく伝わらないですよね。
理念も同じです。
理念を数字に翻訳する3つのステップ
ステップ①:理念を「行動」に分解する
まずやるべきは、
理念をそのまま数字にしようとしないこと。
一度、行動に分解します。
例:
理念:
「長く信頼される会社でありたい」
↓ 行動にすると
- 短期利益より継続取引を優先する
- 無理な値引き競争に入らない
- アフターフォローを重視する
ここまで落とすと、
次が見えてきます。
ステップ②:行動を「重視する数字」に置き換える
次に、その行動が
どの数字に表れるのかを考えます。
先ほどの例なら、
- リピート率
- 継続年数
- 客単価の安定性
- クレーム率
ここで重要なのは、
すべての数字を見る必要はない
理念がある会社ほど、
重視する数字は少ないのが特徴です。
ステップ③:数字に「判断ルール」を与える
最後が、最も社長らしい仕事です。
その数字がどうなったら、
何を判断するのか?
例えば、
- リピート率が下がったら
→ 新規獲得より既存改善を優先 - 利益率が上がりすぎたら
→ 価格か品質のどちらかを見直す
数字が、
見るもの → 判断するもの
に変わった瞬間です。
ケーススタディ①:理念が“利益率”を決めた会社
ある製造業の社長の話です。
理念は、
「職人の誇りが守られる仕事しかしない」
当初、この理念は
完全に精神論でした。
しかし数字に翻訳すると、
- 最低利益率を設定
- それを下回る案件は受けない
- 価格交渉の基準が明確に
結果、
- 売上は一時的に減少
- しかし利益と満足度は向上
- 社員の離職率が激減
理念が、
利益率という数字を通じて経営を支配しました。
ケーススタディ②:「成長」の定義を数字で決めた会社
別の会社では、
「成長し続ける会社でありたい」
という理念がありました。
しかし社内では、
- 売上成長?
- 人数拡大?
- 利益拡大?
定義がバラバラ。
そこで社長が決めたのは、
「一人当たり付加価値の成長」
この瞬間から、
- 採用基準
- 投資判断
- 教育方針
すべてが一本の数字でつながりました。
理念を数字に翻訳できると、説明が楽になる
理念 × 数字がつながると、
社長の説明は驚くほどシンプルになります。
- 社員への説明
- 銀行への説明
- 税理士との会話
すべてにおいて、
「なぜ、この数字を重視するのか」
を理念で説明できるからです。
これは、
信頼の蓄積スピードを一気に上げる
強力な武器になります。
管理会計は「理念翻訳装置」である
ここで、
管理会計の位置づけが明確になります。
管理会計とは、
- 数字を細かくすること
- 管理を厳しくすること
ではありません。
理念を、日々の数字に翻訳し続ける装置
です。
だからこそ、
- 理念がない管理会計は苦しい
- 理念とつながった管理会計は楽しい
この違いが生まれます。
理念を語れ、数字でも語れる社長へ
本シリーズの最終回として、
ひとつメッセージを残します。
理念だけ語れる社長でも足りない
数字だけ語れる社長でも足りない
これからの社長に必要なのは、
理念を、数字の言葉で語れる社長
です。
それができると、
- 迷いが減る
- 判断が早くなる
- 経営が“自分のもの”になる
数字は、
あなたの敵ではありません。
理念を現実にするための、
最も誠実な言語です。
今日の一言
理念を数字に翻訳できた瞬間、
経営は「想い」から「設計」に変わる。
それが、社長が自由になる第一歩。
