
――管理会計は、シンプルでいい・第1回――
「全部見なきゃ」と思った瞬間、経営は重くなる
「試算表は毎月もらっているけど、正直よく分からない」
「数字は一応見ている。でも経営判断に使えている気がしない」
これは、私がこれまで関わってきた小規模事業の社長さんから、最もよく聞く声です。
多くの社長は、数字が“嫌い”なのではありません。
むしろ逆で、ちゃんと見ようとしている。
- 売上
- 利益
- 借入残高
- 経費の内訳
- 勘定科目ごとの増減
……気づけば、毎月10ページ以上の試算表とにらめっこ。
その結果どうなるか。
「よく分からないけど、今月も忙しかった」
「結局、何が良くて何が悪いのか分からない」
これ、社長の能力の問題ではありません。
見るべき数字が多すぎるだけです。
管理会計の第一歩は、
「数字を増やすこと」ではなく「数字を減らすこと」
ここから始まります。
管理会計は「正確さ」より「使えるかどうか」
会計という言葉を聞くと、
- 正確でなければならない
- 間違えたらいけない
- 専門家に任せるもの
そんなイメージが先に立ちがちです。
でも、ここで扱う管理会計は違います。
管理会計は、
社長が意思決定するための“道具”。
極端に言えば、
- 多少ラフでもいい
- 100点じゃなくていい
- 社長が「判断できる」ことが一番大事
です。
そして、そのために毎月見る数字は
驚くほど少なくていい。
結論:社長が毎月見るべき数字は「4つ」だけ
さっそく結論からいきましょう。
小規模事業の社長が、
毎月必ず見てほしい数字は、次の4つだけです。
- 売上
- 粗利(または粗利率)
- 固定費
- 現金残高(+借入返済額)
これだけ?
と思った方ほど、ぜひ読み進めてください。
この4つがそろうと、
経営の8割は説明できるようになります。
① 売上|「頑張った量」を測る数字
まずは一番なじみのある数字、売上。
売上は、
社長と社員がどれだけ市場に価値を届けたか
を示す数字です。
ただし、ここで注意点。
売上は
良し悪しを判断する数字ではありません。
- 売上が上がった=経営が良い
- 売上が下がった=経営が悪い
ではない。
売上はあくまで、
「活動量の結果」。
ケース:売上は伸びたのに、社長が疲弊した会社
あるサービス業の会社。
前年比で売上は120%。
でも社長はこう言いました。
「忙しいだけで、全然楽にならないんです」
理由は簡単。
売上の中身が変わっていなかったから。
- 利益率の低い仕事が増えた
- 手間のかかる案件が多かった
売上は増えた。
でも、経営は楽になっていない。
だからこそ、
売上は次の数字とセットで見ます。
② 粗利|「価値を生んだ量」を見る数字
売上の次に見るべきは、粗利です。
粗利=売上 − 直接かかったコスト。
ここが、
**その商売が生んだ“付加価値”**です。
売上よりも、
粗利の増減を見てください。
- 粗利は増えたか
- 粗利率はどうか
粗利を見ると、商売の質が見える
先ほどの会社も、
売上は120%でしたが、
- 粗利は105%
- 粗利率は低下
していました。
つまり、
「たくさん動いたけど、
あまり価値は増えていない」
という状態。
社長が見るべき問いは、
ここで初めて生まれます。
- 値決めは適切か?
- やらなくていい仕事はないか?
- 強みのある商品に集中できているか?
粗利は、
経営改善のスタート地点です。
③ 固定費|「会社の重さ」を測る数字
次に見るのが、固定費。
- 人件費
- 家賃
- リース料
- システム利用料
売上がゼロでも出ていくお金です。
固定費は、
**会社の“重さ”**を表します。
固定費は「悪者」ではない
よくある誤解があります。
「固定費は低い方がいい」
これは半分正解、半分間違い。
固定費は、
将来のための投資でもある。
- 人を雇う
- 仕組みを作る
- 環境を整える
大事なのは、
粗利で、固定費を余裕をもって支えられているか
ここを見ること。
④ 現金残高|「呼吸ができているか」の確認
最後が、現金残高。
利益が出ていても、
現金がなければ会社は止まります。
ここで見るのは、
- 今いくら現金があるか
- 毎月いくら返済しているか
社長が感じる「不安」の正体
社長が感じる不安の多くは、
実はこの数字です。
- 来月の支払いは大丈夫か
- 人を増やしても耐えられるか
現金残高を見ることで、
「何ヶ月生きられるか」
が分かるようになります。
これは、
精神安定剤のような数字です。
なぜ「この4つ」で足りるのか?
理由はシンプル。
この4つは、
- 行動量(売上)
- 価値創造(粗利)
- 構造(固定費)
- 安全性(現金)
という、
経営の本質を全部カバーしているから。
逆に言えば、
これが分からない状態で
勘定科目を細かく見ても
判断はできない
のです。
管理会計は「慣れ」ではなく「設計」
最後に大事なことを。
管理会計は、
数字に慣れることではありません。
「自分は、どの数字で判断する社長なのか」
を決めることです。
まずは、この4つ。
- 毎月、同じタイミングで
- 同じ数字を
- 同じ順番で見る
それだけで、
経営は驚くほど軽くなります。
今日の一言
管理会計は、数字を増やす技術ではない。
社長が“判断できる状態”をつくる技術である。
