
――戦わない市場を決めるという戦略・第8回――
「戦略の話なのに、なぜお金の話になるのか?」
市場戦略や競争戦略というと、
- 差別化
- ポジショニング
- 強み・弱み
といった言葉が並びがちです。
一方で、社長の頭の中にある現実的な悩みは、こうです。
「で、結局、いくら残るんですか?」
この問いに答えられない戦略は、
戦略として未完成です。
利益は「結果」だが、「偶然」ではない
まず、はっきりさせておきます。
利益は、
- 運
- 景気
- たまたま
で生まれるものではありません。
選んだ競争戦略の結果として、
ほぼ必然的に生まれるもの
です。
逆に言えば、
利益が出ないのは、
努力不足よりも、戦略と利益構造がズレている
ケースがほとんどです。
競争戦略は、利益の「取り方」を決めている
競争戦略とは何か。
難しく言えば色々ありますが、
シンプルに言うと、
「どこで、どうやって利益を取るか」を決めること
です。
ここを曖昧にしたまま、
- 営業を頑張る
- 集客を増やす
- 値引きをする
と、どれだけ動いても、
利益は思うように残りません。
ケーススタディ①:忙しいのに苦しい会社
ある制作会社の例です。
- 仕事は常にパンパン
- 社員も残業が多い
- 売上は毎年微増
しかし、
- 利益はほぼゼロ
- 社長は常に資金繰りを気にしている
理由は明確でした。
競争戦略が「価格競争」に寄っていた
「安く・早く・何でもやる」の利益構造
この会社の戦略は、
- スピード対応
- 幅広い対応
- 相場より少し安い価格
一見、顧客目線です。
しかし、利益構造を見ると、
- 単価は上がらない
- 手間は増える
- 人件費が利益を食う
という構造。
つまり、
売れれば売れるほど苦しくなる戦略
でした。
戦略を変えずに、利益だけ欲しがる矛盾
ここでよくある会話があります。
社長:「もっと利益を残したい」
支援者:「では、価格を上げましょう」
社長:「それは怖いです」
この時点で、
競争戦略と利益構造が断絶
しています。
価格を上げられない戦略を選んでいるのに、
利益だけ欲しい。
これは、構造的に無理です。
競争戦略別・利益構造の違い
ここで、整理してみましょう。
① 価格競争型戦略
特徴
- 比較されやすい
- 数で勝負
- 効率重視
利益構造
- 薄利多売
- 固定費管理が命
- 少しのミスで赤字
② 差別化戦略
特徴
- 比較されにくい
- 価値で選ばれる
- 顧客が限定される
利益構造
- 単価が高い
- 利益率が安定
- 数は追えない
③ ニッチ集中戦略(戦わない市場)
特徴
- 競合が少ない
- 判断基準が明確
- 顧客との距離が近い
利益構造
- 高粗利
- 固定客が育つ
- 投資判断がしやすい
「戦わない市場」は、利益構造が穏やか
このシリーズで繰り返し話してきた
「戦わない市場」。
ここがなぜ重要かというと、
利益構造が、経営者に優しい
からです。
- 値引き要求が少ない
- 比較されにくい
- 説明コストが下がる
結果として、
- 利益率が安定
- キャッシュが残る
- 判断がブレにくい
ケーススタディ②:同じ業界、真逆の結果
同じ業界の2社。
A社
- 幅広い客層
- 相見積もり前提
- 単価は相場通り
B社
- 特定業界に特化
- 見積比較されにくい
- 単価は相場の1.5倍
売上規模はほぼ同じ。
しかし、
- A社:利益率3%
- B社:利益率18%
違いは、能力でも努力でもなく、
選んだ競争戦略
でした。
管理会計で見るべきポイントが変わる
競争戦略が違えば、
管理会計で見るべき数字も変わります。
価格競争型
- 稼働率
- 原価率
- 固定費回収
差別化・ニッチ型
- 粗利率
- 顧客別利益
- 継続率
同じP/Lを見ていても、
注目点がまったく違う
のです。
利益構造は「後から直せない」
ここが一番大事なポイントです。
- 集客方法
- 客層
- 提供内容
これらが決まった後に、
利益構造だけを良くすることはできない
ほぼ不可能です。
だからこそ、
戦略の段階で、利益の取り方を決める
必要があります。
「儲かるかどうか」は、戦う前に決まっている
戦ってから、
- 勝てるか
- 儲かるか
を考えるのでは遅い。
本来は、
戦う前に、
その市場で利益が残る構造かを見る
これが戦略です。
戦略とは、覚悟の選択である
競争戦略を選ぶということは、
- 取らない利益を決める
- やらない仕事を決める
- 断る顧客を決める
ということでもあります。
ここを曖昧にすると、
全部やって、何も残らない
状態になります。
戦略・マーケ・会計は、一本の線でつながっている
- マーケティングは「選ばれる理由」
- 競争戦略は「戦う場所」
- 管理会計は「結果の確認」
別物ではありません。
一本の線でつながった、経営の設計図
です。
今日の一言
利益が出ないのは、
頑張りが足りないからではない。
選んだ競争戦略が、
その利益構造を連れてきているだけだ。
