
――管理会計は、シンプルでいい・第2回――
「いい管理会計ツールはありませんか?」という質問への違和感
管理会計の話を始めると、かなりの確率でこんな質問を受けます。
「管理会計をやりたいんですが、
何か良いツールはありませんか?」
クラウド会計、BIツール、経営ダッシュボード。
最近は、見た目がきれいで高機能なツールが山ほどあります。
でも、私はこの質問を聞くたびに、
少し立ち止まってしまいます。
なぜなら、多くのスモールビジネスにとって、
管理会計が回らない理由は、ツールではない
からです。
むしろ、
ツールを入れた瞬間に止まる会社
を、何度も見てきました。
管理会計が続かない会社に共通する3つのパターン
まずは、うまくいかない典型例から見てみましょう。
パターン①:最初から「立派すぎる仕組み」を作る
- 月次で部門別
- 商品別
- 担当者別
- 予実管理も完璧
……最初はやる気満々。
でも数か月後、
「入力が追いつかない」
「数字を見る前に疲れる」
となり、
誰も見なくなる。
パターン②:税理士・経理に丸投げする
「管理会計は専門的だから」
と、作成を完全に任せる。
結果どうなるか。
- 数字は出てくる
- でも社長は意味が分からない
- 判断には使われない
これは、
**管理会計ではなく“資料作り”**です。
パターン③:数字が多すぎて、結局何も決められない
- 指標は20個
- グラフも10種類
- でも、会議で出る言葉は
「で、結局どうする?」
数字は増えたのに、
判断は減る。
なぜ「Excel1枚」でいいのか?
ここで本題です。
なぜ私は、
「管理会計はExcel1枚で十分」
と言い切るのか。
理由はとてもシンプルです。
管理会計の目的は、
数字を作ることではなく、
社長が判断することだから
Excel1枚とは、
「簡単で手抜き」という意味ではありません。
思考を1枚に集約する
という意味です。
管理会計の主役は「社長の頭の中」
管理会計で一番大事なのは、
社長が何を見て、何を考え、どう決めるか。
そのためには、
- 情報が多すぎない
- 見る順番が決まっている
- 毎月同じ形で比較できる
これが必要です。
Excel1枚は、
これを満たすのに最適な器です。
Excel1枚に載せるべき情報とは?
では、その1枚に何を載せるのか。
第1回でお伝えした
「社長が毎月見るべき4つの数字」
を、縦に並べるだけで十分です。
- 売上
- 粗利(または粗利率)
- 固定費
- 営業キャッシュ(または現金残高)
そこに、
- 今月
- 前月
- 前年同月
を並べる。
たったこれだけで、
会話が生まれる数字になります。
ケーススタディ:Excel1枚で経営会議が変わった会社
ある従業員10名ほどの会社。
以前は、
税理士からもらう試算表を
そのまま経営会議で使っていました。
- 勘定科目がずらり
- 参加者は資料を黙読
- 会議は静か
そして最後に社長が一言。
「とりあえず、売上を頑張ろう」
典型的なパターンです。
Excel1枚に変えた結果
管理会計用に、
社長専用のExcel1枚を作成。
そこに載せたのは、
- 月別売上
- 月別粗利
- 固定費合計
- 現金残高
これだけ。
すると会議で出る言葉が変わりました。
- 「今月、粗利率が落ちた理由は?」
- 「この固定費、来月から効いてくるよね」
- 「このペースだと、何ヶ月持つ?」
数字が、
会話のきっかけになったのです。
高機能ツールほど「前提理解」が必要
誤解しないでほしいのですが、
高機能な管理会計ツールが
悪いわけではありません。
ただし、それらは
- 何を見るか
- どう判断するか
が、社長の中で固まっている会社向けです。
管理会計の前提ができていない状態で使うと、
「きれいだけど、よく分からない画面」
になります。
Excel1枚は、
思考を整理する訓練装置でもあるのです。
管理会計は「育てるもの」
管理会計は、
最初から完成させるものではありません。
- 最初はExcel1枚
- 慣れてきたら項目を1つ足す
- 必要になったら分ける
この順番が大切です。
逆は、ほぼ失敗します。
「Excelが苦手」でも問題ない理由
ここで、よくある反論。
「Excelが苦手なんですが…」
安心してください。
- 関数は不要
- マクロも不要
- 罫線と数字だけ
で十分です。
大事なのは、
作り方ではなく、使い方。
完璧な表より、
毎月ちゃんと見る表。
これが、
管理会計が回るかどうかの分かれ目です。
管理会計を軽くすると、経営が前に進む
数字が重いと、
経営判断は後回しになります。
数字が軽いと、
経営判断は日常になります。
Excel1枚は、
そのための最低限で、最強の形です。
今日の一言
管理会計に必要なのは、高機能なツールではない。
社長の頭の中と、同じ構造の数字である。
