
―― 数字を勉強しているのに、なぜ社長は楽にならないのか?
「ちゃんと簿記を勉強したのに、なぜか経営は楽にならない」
「簿記の本を1冊読んだ」
「YouTubeで仕訳の解説動画を見た」
「会計ソフトの使い方も、一通り覚えた」
それなのに――
なぜかお金の不安は減らない。むしろ増えている。
これは、私がこれまで多くの小規模事業者・個人事業主の方と話してきて、
本当によく聞く声です。
数字を学ぶこと自体は、間違っていません。
むしろ「学ぼう」としている時点で、とても健全です。
ただし、多くの社長が
“学ぶ順番”を間違えています。
このシリーズでは、その「間違えやすい順番」を一度リセットし、
利益につながる簿記の付き合い方を、ゼロから組み立て直していきます。
落とし穴①|「簿記=仕訳を覚えること」だと思ってしまう
まず最初に、多くの社長がハマる最大の落とし穴があります。
それは、
簿記を学ぶ
=
仕訳を覚えること
と思ってしまうことです。
借方?貸方?で止まる社長たち
・借方と貸方、どっちが増えるんだっけ?
・これは資産?経費?
・この場合、仕訳は2行?3行?
ここで頭がフリーズしてしまう方、本当に多いです。
そして、こうなります。
「やっぱり自分には数字は向いていない」
「会計は専門家に任せるしかない」
でも、これは社長の能力の問題ではありません。
教えられ方が、経営者向けではないだけです。
落とし穴②|「正しい記帳」と「使える数字」を混同している
簿記の世界では、「正確さ」はとても大切です。
1円ズレていればNG、という世界です。
ただし――
経営の世界では、少し話が違います。
ケース:数字は合っているのに、なぜか苦しい会社
ある小規模事業者の方の例です。
- 記帳は毎月きちんとやっている
- 税理士からも「処理は問題ない」と言われている
- 決算書も毎年きれいに出ている
それでも、社長はこう言いました。
「利益は出ているはずなのに、なぜかお金が残らない」
「今月、儲かったのかどうかが正直分からない」
これは珍しい話ではありません。
記帳は正しい。でも、数字が“経営判断に使われていない”。
この状態が、実は一番危険です。
簿記は「記録の技術」、経営は「判断の技術」
ここで、一度はっきりさせておきたいことがあります。
- 簿記 → 過去を正しく記録する技術
- 経営 → 未来を良くするための判断
この2つは、似ているようで目的が違います。
ところが多くの社長は、
正しく記録できるようになれば
↓
自然と経営判断もできるようになる
と考えてしまいます。
残念ながら、そうはなりません。
なぜなら、
簿記は「答えのある世界」
経営は「答えのない世界」
だからです。
落とし穴③|「試験用の簿記」を社長が学んでしまう
市販の簿記の本や講座の多くは、
実は試験(簿記検定)向けに作られています。
- 仕訳を網羅的に覚える
- 勘定科目を正確に分類する
- ルールを間違えない
これは、経理担当者や資格取得者には非常に重要です。
しかし、社長にとって本当に必要なのは、
- 今月は儲かったのか?
- どこで利益が削られているのか?
- このまま行くと、3か月後は危ないのか?
こうした判断に直結する視点です。
ここを飛ばして仕訳から入ると、
「分かった気がするけど、経営は変わらない」
という状態になります。
事例|簿記をやめたら、数字が見えるようになった社長
ある個人事業主の方の話です。
この方は、毎晩のように簿記の本を開き、
仕訳の練習をしていました。
でも、月次のP/L(損益計算書)を見ると、
「これ、結局どういう意味なんですか?」
と毎回聞かれていました。
そこで一度、こう提案しました。
「仕訳のことは、一旦忘れましょう」
「代わりに、3つだけ数字を見てください」
- 売上はいくらか
- 粗利はいくら残っているか
- 固定費はいくらかかっているか
これだけです。
すると、その方はこう言いました。
「あ、今月ヤバいですね」
「このままだと来月赤字になりますね」
初めて、自分で数字から判断できた瞬間でした。
社長に必要なのは「簿記の知識」ではなく「数字との距離感」
ここで、重要な考え方をお伝えします。
社長は、
- 簿記を「完璧に理解」する必要はありません
- 仕訳を「自力で組み立てる」必要もありません
必要なのは、
数字を見て、
「良い」「悪い」「怪しい」
が分かる距離感
です。
この距離感があれば、
- 税理士とも対等に話せる
- 会計ソフトに振り回されない
- 数字を理由に、決断できる
ようになります。
このシリーズでお伝えすること
このブログシリーズでは、
**簿記を“経営のために使い直す”**ことを目的にしています。
そのため、
- 前半では、あえて仕訳をほとんど扱いません
- 「どう入力するか」より「どう判断するか」を重視します
- 会計ソフトを前提にした、現実的な話をします
そして後半で初めて、
「ああ、仕訳ってそういう役割だったのか」
と腑に落ちる形で、仕訳に触れていきます。
次回予告|仕訳を意識しない「判断ベース記帳」という考え方
次回は、
「仕訳を意識しない“判断ベース記帳”という考え方」
について解説します。
- なぜ仕訳を考えると手が止まるのか
- 会計ソフトは、実は“質問ツール”である
- 社長が持つべき、たった3つの判断軸
を、具体例を交えてお話しします。
今日の「虎の巻」
「簿記を学んでも利益が増えないのは、あなたが間違っているからではない。
学ぶ順番が、社長向けではなかっただけだ。」
