
「原価は下げた。なのに、なぜ楽にならないのか?」
社長から、こんな言葉を聞くことがあります。
「仕入先を見直して原価は下げたんです」
「外注を減らして、だいぶコストカットしました」「……でも、正直あまり儲かった感じがしないんですよね」
これは、かなり多くの会社で起きている現象です。
原価を下げれば、
粗利は増える。
理屈では、間違っていません。
それなのに、
なぜ会社は楽にならないのか。
今回は、
「原価を下げても儲からない会社」に共通する思考のクセ
を、構造的に見ていきます。
原価を下げる=正解、ではない理由
最初に大事なことを言っておきます。
原価を下げること自体は、
決して悪いことではありません。
ただし、
原価を下げること“だけ”で儲かろうとする会社
には、共通する落とし穴があります。
それは、
原価を「操作対象」としては見ているが
粗利を「構造」として見ていない
という点です。
共通点①|「原価=悪者」になっている
原価を下げても儲からない会社では、
原価がこんな扱いを受けています。
- とにかく下げるもの
- 高い=悪
- 低い=正義
この考え方、一見正しそうですが、
実はとても危険です。
なぜなら、
原価は価値の裏返しだからです。
- 良い材料
- 丁寧な工程
- 経験のある人
これらはすべて、原価になります。
原価を下げることで、
- 品質が落ちる
- 手戻りが増える
- クレームが増える
結果として、
忙しくなっただけ
という状態に陥るケースは、少なくありません。
ケーススタディ①|原価削減で“疲れる会社”になった例
背景
製造業I社。
利益改善のため、社長は原価削減に着手しました。
- 材料を安いものに変更
- 外注工程を内製化
数字上は、
確かに原価は下がりました。
その後、何が起きたか
- 不良率が上がる
- 手直し作業が増える
- 現場の残業が増える
結果、
- 人件費が増加
- 納期トラブル発生
粗利は、ほとんど増えませんでした。
なぜか。
原価を下げた結果、
「別のコスト」を呼び込んでいたからです。
共通点②|「原価を下げれば粗利が増える」と思い込んでいる
ここで、一つ冷静になりましょう。
粗利の式は、こうです。
売上 − 原価 = 粗利
原価を下げれば、
理論上は粗利は増えます。
でも実際の経営では、
こんなことが起きます。
- 原価を下げた分、値下げ要求が来る
- 「安くできるなら」と、価格交渉される
- 結果、売価も下がる
つまり、
原価を下げても、
粗利“率”は変わらない
という状態です。
これでは、
いくら努力しても報われません。
ケーススタディ②|値下げ圧力に飲み込まれた会社
背景
卸売業J社。
仕入れ条件を改善し、原価を下げました。
社長の期待
- 「これで粗利が増える」
- 「会社が楽になる」
現実
- 得意先から値下げ要請
- 「原価下がったんでしょ?」の一言
結局、
- 売価も下げる
- 粗利額はほぼ変わらず
残ったのは、
交渉疲れだけでした。
共通点③|「どこで粗利を作るか」が決まっていない
原価を下げても儲からない会社は、
共通してこの問いに答えられません。
「うちは、どこで粗利を作る会社ですか?」
- 商品か
- サービスか
- スピードか
- 手間か
これが決まっていないと、
- 全部を安くしようとする
- 全部を効率化しようとする
結果、
強みが消えていくのです。
粗利は「削って増やすもの」ではない
ここで、視点を変えましょう。
粗利は、
- 原価を削って
- 無理にひねり出す
ものではありません。
本来の粗利とは、
価値に見合った価格が、
正しく受け取れている状態
の結果です。
だから、
- 原価だけをいじっても
- 儲かるとは限らない
のです。
儲かる会社がやっている“逆の思考”
原価を下げても儲からない会社と、
儲かる会社。
決定的な違いは、
考える順番です。
儲からない会社
- 原価を下げる
- 粗利が増えるはず
- でも増えない
儲かる会社
- どこで価値を出すか決める
- その価値に合う価格を考える
- 結果として、粗利が残る
原価は、
最後に調整するものであって、
最初に叩くものではありません。
ケーススタディ③|原価に手を付けず、儲かるようになった会社
背景
サービス業K社。
社長は、原価(人件費)が高いことに悩んでいました。
見直したのは原価ではなく…
- 提供内容の整理
- 手間のかかる仕事の線引き
- 価格の考え方
結果、
- 原価はほぼ変わらず
- 粗利額は大きく改善
社長の言葉が印象的でした。
原価を下げるより、
取るべき粗利を決めた方が早かった
原価を下げる前に、必ず考えるべき問い
もし今、
「原価を下げよう」
と思ったら、
一度立ち止まって、
この問いを自分に投げてみてください。
- この原価は、価値を生んでいるか?
- それとも、構造の歪みを隠しているだけか?
- 原価を下げた先に、どんな行動変化が起きるか?
この問いを飛ばすと、
原価削減は
会社を疲れさせる施策になります。
次回予告|粗利を「率」で見始めた瞬間に起きること
次回は、
「粗利率を追いかけ始めると、なぜ経営が歪むのか」
という、少し刺激的なテーマを扱います。
- 粗利率が高い=良い会社?
- 業界平均は本当に目安になる?
粗利を“率”で見る落とし穴を、
丁寧に解説していきます。
今日の一言
原価を下げても儲からないのは、
原価が問題なのではなく、
「どこで粗利を作るか」を決めていないからである。
