
― 強いはずの会社が、ある日突然“重く”なる正体 ―
「社長が決めているから安心」…本当にそうでしょうか?
小規模企業や成長途中の会社で、よく聞く言葉があります。
「うちは、最終的には全部社長判断なんで」
「社長が見ているから、大丈夫です」
一見すると、とても頼もしい言葉です。
実際、創業初期や人数が少ない段階では、このやり方でうまく回ることも多い。
ところが、あるタイミングを境に、
会社は少しずつ、しかし確実に“重く”なっていきます。
・決定が遅くなる
・現場が止まる
・社長が疲弊する
・社長がいないと何も決まらない
そして経営者自身が、こう感じ始めます。
前はもっと、うまく回っていた気がするんだけどな…
今回は、その正体を紐解いていきます。
「全部社長判断」は、最初は最強の仕組み
まず誤解してほしくないのは、
「全部社長判断」が最初から悪いわけではないという点です。
創業期には、むしろ合理的です。
- 情報が社長に集中している
- 判断が早い
- 方向性がブレない
- 無駄な会議がない
社長の頭の中に、
・顧客
・商品
・価格
・現場感
がすべて揃っている。
だから決断も早く、成果も出やすい。
問題は、会社が成長し始めた後に起こります。
社長の判断力には「上限」がある
会社が大きくなるにつれて、
社長のもとには、こんな判断が集まってきます。
- 価格を下げてもいいか
- この案件、受けるべきか
- この人、採用していいか
- このトラブル、どう対応するか
一つひとつは小さく見えても、
判断の数そのものが爆発的に増える。
ここで重要なのは、
社長の能力の問題ではない、ということです。
どんなに優秀な経営者でも、
- 判断できる回数
- 集中力
- 精度
には限界があります。
結果、どうなるか。
- 判断が遅れる
- 雑になる
- 先送りが増える
そして、会社全体が「待ち」の状態になります。
ケース①:社長待ちが常態化した製造業
ある10名規模の製造業では、
こんな状態が続いていました。
・発注の可否
・納期調整
・値引き判断
すべて社長確認。
現場は「社長に聞かないと進めない」
社長は「なんでこんなことまで…」とイライラ。
でも、誰も悪くありません。
仕組みがないだけなのです。
「判断しない現場」が育ってしまう理由
「全部社長判断」の最大の弊害は、
現場が考えなくなることです。
最初はこうです。
「一応、社長に確認しておこう」
それが次第に、
「どうせ社長判断だから、考えなくていいや」
へと変わる。
これは、現場の怠慢ではありません。
学習の機会を奪われている状態です。
・判断基準が見えない
・正解が分からない
・失敗が許されない
この環境で、自ら判断できる人材は育ちません。
社長が“ボトルネック”になる瞬間
会社が回らなくなる決定的な瞬間があります。
それは、
社長がいないと、何も進まない
状態が当たり前になったとき。
- 出張中で止まる
- 会議中で止まる
- 休んでいても電話が鳴る
社長は休めず、
現場は動けない。
これを「責任感」と呼ぶこともありますが、
実態は構造的な詰まりです。
ケース②:優秀な社長ほど、会社を止めてしまう
皮肉な話ですが、
優秀な社長ほど、この罠にハマります。
・判断が的確
・スピードが速い
・現場より詳しい
だから任せられない。
任せるより、自分でやった方が早い。
結果、
- 社長は忙殺
- 現場は受け身
- 成長が止まる
「自分が頑張ることで、会社が弱くなる」
そんな逆転現象が起きます。
問題は「権限委譲が足りない」ことではない
ここでよく出るアドバイスがあります。
「もっと任せましょう」
「権限委譲しましょう」
でも、多くの社長はこう思っています。
任せたいけど、怖いんです
それもそのはず。
- 判断基準がない
- 失敗したときの線引きがない
- どこまで任せていいか分からない
この状態で任せるのは、
丸投げになってしまいます。
問題は、権限委譲ではありません。
意思決定の設計がないことです。
「全部社長判断」は、実は責任が曖昧になる
意外かもしれませんが、
全部社長判断の会社ほど、責任が曖昧になります。
なぜなら、
- 判断したのは社長
- 実行したのは現場
という構図になるから。
うまくいけば「社長のおかげ」
うまくいかなければ「社長の判断が…」
現場は、結果に責任を持ちにくい。
これでは、組織としての成長は望めません。
行き詰まりの正体は「社長の限界」ではない
ここまで読んで、
「自分のキャパが足りないのかな…」
と感じた方もいるかもしれません。
でも、違います。
これは、
社長個人の問題ではなく、会社の構造の問題
です。
社長が全部決める構造は、
成長すればするほど、必ず限界が来る。
それは、避けられない自然現象のようなもの。
じゃあ、どうすればいいのか?
このシリーズでは、
この問いに順を追って答えていきます。
次回以降、
- なぜ意思決定が壊れるのか
- うまく回る会社は何が違うのか
- 社長がどこまで決めるべきなのか
を、一つずつ解きほぐしていきます。
大切なのは、
「全部社長判断」を否定することではありません。
そこから、どう卒業するかです。
今日の一言
「全部社長判断」は強さではなく、
成長途中の仮設構造にすぎない。
それに気づいた瞬間から、
会社は“次の回り方”を探し始めます。
