①「全部社長判断」の会社が必ず行き詰まる理由


― 強いはずの会社が、ある日突然“重く”なる正体 ―

「社長が決めているから安心」…本当にそうでしょうか?

小規模企業や成長途中の会社で、よく聞く言葉があります。

「うちは、最終的には全部社長判断なんで」
「社長が見ているから、大丈夫です」

一見すると、とても頼もしい言葉です。
実際、創業初期や人数が少ない段階では、このやり方でうまく回ることも多い。

ところが、あるタイミングを境に、
会社は少しずつ、しかし確実に“重く”なっていきます。

・決定が遅くなる
・現場が止まる
・社長が疲弊する
・社長がいないと何も決まらない

そして経営者自身が、こう感じ始めます。

前はもっと、うまく回っていた気がするんだけどな…

今回は、その正体を紐解いていきます。

「全部社長判断」は、最初は最強の仕組み

まず誤解してほしくないのは、
「全部社長判断」が最初から悪いわけではないという点です。

創業期には、むしろ合理的です。

  • 情報が社長に集中している
  • 判断が早い
  • 方向性がブレない
  • 無駄な会議がない

社長の頭の中に、
・顧客
・商品
・価格
・現場感
がすべて揃っている。

だから決断も早く、成果も出やすい。

問題は、会社が成長し始めた後に起こります。

社長の判断力には「上限」がある

会社が大きくなるにつれて、
社長のもとには、こんな判断が集まってきます。

  • 価格を下げてもいいか
  • この案件、受けるべきか
  • この人、採用していいか
  • このトラブル、どう対応するか

一つひとつは小さく見えても、
判断の数そのものが爆発的に増える

ここで重要なのは、
社長の能力の問題ではない、ということです。

どんなに優秀な経営者でも、

  • 判断できる回数
  • 集中力
  • 精度

には限界があります。

結果、どうなるか。

  • 判断が遅れる
  • 雑になる
  • 先送りが増える

そして、会社全体が「待ち」の状態になります

ケース①:社長待ちが常態化した製造業

ある10名規模の製造業では、
こんな状態が続いていました。

・発注の可否
・納期調整
・値引き判断

すべて社長確認。

現場は「社長に聞かないと進めない」
社長は「なんでこんなことまで…」とイライラ。

でも、誰も悪くありません。
仕組みがないだけなのです。

「判断しない現場」が育ってしまう理由

「全部社長判断」の最大の弊害は、
現場が考えなくなることです。

最初はこうです。

「一応、社長に確認しておこう」

それが次第に、

「どうせ社長判断だから、考えなくていいや」

へと変わる。

これは、現場の怠慢ではありません。
学習の機会を奪われている状態です。

・判断基準が見えない
・正解が分からない
・失敗が許されない

この環境で、自ら判断できる人材は育ちません。

社長が“ボトルネック”になる瞬間

会社が回らなくなる決定的な瞬間があります。

それは、

社長がいないと、何も進まない

状態が当たり前になったとき。

  • 出張中で止まる
  • 会議中で止まる
  • 休んでいても電話が鳴る

社長は休めず、
現場は動けない。

これを「責任感」と呼ぶこともありますが、
実態は構造的な詰まりです。

ケース②:優秀な社長ほど、会社を止めてしまう

皮肉な話ですが、
優秀な社長ほど、この罠にハマります。

・判断が的確
・スピードが速い
・現場より詳しい

だから任せられない。
任せるより、自分でやった方が早い。

結果、

  • 社長は忙殺
  • 現場は受け身
  • 成長が止まる

「自分が頑張ることで、会社が弱くなる」
そんな逆転現象が起きます。

問題は「権限委譲が足りない」ことではない

ここでよく出るアドバイスがあります。

「もっと任せましょう」
「権限委譲しましょう」

でも、多くの社長はこう思っています。

任せたいけど、怖いんです

それもそのはず。

  • 判断基準がない
  • 失敗したときの線引きがない
  • どこまで任せていいか分からない

この状態で任せるのは、
丸投げになってしまいます。

問題は、権限委譲ではありません。
意思決定の設計がないことです。

「全部社長判断」は、実は責任が曖昧になる

意外かもしれませんが、
全部社長判断の会社ほど、責任が曖昧になります。

なぜなら、

  • 判断したのは社長
  • 実行したのは現場

という構図になるから。

うまくいけば「社長のおかげ」
うまくいかなければ「社長の判断が…」

現場は、結果に責任を持ちにくい。

これでは、組織としての成長は望めません。

行き詰まりの正体は「社長の限界」ではない

ここまで読んで、

「自分のキャパが足りないのかな…」

と感じた方もいるかもしれません。

でも、違います。

これは、

社長個人の問題ではなく、会社の構造の問題

です。

社長が全部決める構造は、
成長すればするほど、必ず限界が来る

それは、避けられない自然現象のようなもの。

じゃあ、どうすればいいのか?

このシリーズでは、
この問いに順を追って答えていきます。

次回以降、

  • なぜ意思決定が壊れるのか
  • うまく回る会社は何が違うのか
  • 社長がどこまで決めるべきなのか

を、一つずつ解きほぐしていきます。

大切なのは、
「全部社長判断」を否定することではありません。

そこから、どう卒業するかです。

今日の一言

「全部社長判断」は強さではなく、
成長途中の仮設構造にすぎない。

それに気づいた瞬間から、
会社は“次の回り方”を探し始めます。


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