─ 勘違いから抜け出すポジショニング思考|第1回目(全4回) ─
「もっと付加価値をつけよう」と言われて、苦しくなったことはありませんか?
「他社と違う強みを出しましょう」
「付加価値を高めれば、価格競争から抜け出せます」
経営やマーケティングの話をしていると、ほぼ必ず出てくるフレーズです。
そして多くの人が、こう考えます。
なるほど。
じゃあ、もっとサービスを増やそう。
もっと丁寧にやろう。
もっと高品質にしよう。
結果どうなるか。
- やることは増えた
- 手間もコストも増えた
- なのに、価格は上げにくい
- むしろ「それもやってくれるなら、他も…」と言われる
……これ、身に覚えありませんか?
実はここに、ポジショニングに関する致命的な勘違いがあります。
それが、
「差別化=付加価値アップ」だと思い込んでしまうことです。
差別化とは「足し算」ではない
まず大前提から整理しましょう。
差別化とは、
他より優れていることを増やすことではありません。
差別化とは、
“選ばれる理由が他とズレている状態”をつくることです。
この2つ、似ているようでまったく違います。
よくある差別化の誤解
多くの会社がやっているのは、こんな差別化です。
- 他社より少し安い
- 他社より対応が早い
- 他社より品質が良い
- 他社よりサービスが多い
これは一見「差別化」に見えますが、実態は同じ土俵での競争です。
土俵が同じである限り、
評価軸も同じになり、
最後は「価格」や「条件」の話に戻っていきます。
つまり、
付加価値を足しても、ポジションは変わらない
ということです。
なぜ「付加価値アップ」は価格競争を激化させるのか
ここで少し、構造的な話をします。
付加価値アップが引き起こす3つの連鎖
① 比較しやすくなる
→ 機能・サービス・条件が並ぶ
→ 横並びで比較される
② 真似されやすくなる
→ 他社も同じ付加価値を追加
→ すぐに標準化する
③ 「それ込み」が当たり前になる
→ 価格に転嫁しにくい
→ 値上げすると「高い」と言われる
結果どうなるか。
どこも頑張っているのに、
どこも苦しい
という世界が生まれます。
これが、
差別化しようとするほど価格競争に巻き込まれる理由です。
ケース①:サービスを増やし続けた制作会社
ある中小の制作会社の例です。
競合が多い業界だったため、
「他より親切に、他より手厚く」を合言葉にしていました。
- 修正回数は無制限
- 打ち合わせは何度でもOK
- 納品後のフォローも無料
確かに、顧客満足度は高い。
でも、こんな問題が出てきました。
- 案件ごとの工数が読めない
- スタッフが疲弊
- 利益が残らない
- 価格を上げる理由が説明できない
なぜか?
その付加価値は、「選ばれる理由」になっていなかったからです。
お客さんはこう思っています。
どこも同じようなことはやってくれる
だったら安い方でいい
つまり、
付加価値は増えたが、ポジションは変わっていない状態でした。
差別化で考えるべきは「何を足すか」ではない
ここで視点を切り替えましょう。
差別化で本当に考えるべき問いは、これです。
自分たちは、どんな前提で選ばれているのか?
言い換えると、
- 誰にとって
- どんな状況で
- 何を解決する存在なのか
この問いに答えないまま、
付加価値だけを足しても、
それは方向の定まらない努力になります。
ケース②:「減らす」ことで選ばれた会社
今度は逆の例です。
ある業務支援会社は、
あえて次のことをやめました。
- 幅広い業種への対応
- カスタマイズ前提の提案
- 価格交渉ありきの受注
代わりに、こう決めました。
- 特定業種のみ
- 決まった型で提供
- 価格は一律・説明しない
一見すると、「付加価値を下げている」ように見えます。
でも実際には、
- 話が早い
- 自分向けだと分かりやすい
- 価格に納得感がある
という理由で選ばれるようになりました。
ここで起きているのは、
付加価値アップではなく、前提のズラしです。
「高付加価値=高価格」ではない
もう一つ、重要な勘違いがあります。
それは、
高付加価値なら、高く売れる
という発想です。
実際は、
- 高付加価値
- でも「誰にとっての価値か」が曖昧
だと、高くは売れません。
価値は、受け取る側の文脈で決まります。
つまり、
価値とは、相対的なもの
同じサービスでも、
- ある人には高すぎる
- 別の人には「安い」と感じる
この差を生むのが、ポジショニングです。
ポジショニングは「価値の定義」を変える作業
ここまでを整理すると、こう言えます。
- 差別化 = 付加価値アップ
- ではない
- 差別化 = 価値の定義を変えること
何が価値か。
何を重要視するか。
何を基準に選ぶか。
この評価軸そのものをずらせたとき、
初めて価格競争から距離を取ることができます。
なぜこの勘違いがなくならないのか
最後に、この誤解が広がりやすい理由にも触れておきます。
- 「付加価値」という言葉が便利すぎる
- 足し算の方が分かりやすい
- 努力している感が出やすい
でも、
分かりやすい方法ほど、落とし穴になりやすい。
だからこそ、
一度立ち止まって問い直す必要があります。
まとめ:差別化は「頑張り方」を変える話ではない
差別化とは、
- もっと頑張ること
- もっと良くすること
ではありません。
どこで、誰と、どう戦わないかを決めることです。
次回以降、このシリーズでは、
- なぜ「誰に売るか」がすべての起点になるのか
- なぜ競合を見すぎると迷子になるのか
- なぜ改善フェーズでやると失敗するのか
といった話を、順に掘り下げていきます。
今日の一言
差別化とは、価値を足すことではない。
「何を価値とするか」を決め直すことだ。
ここを間違えなければ、
ポジショニングは一気にクリアになります。
