
――税理士に任せている、という幻想・第2回――
「全部任せちゃダメなんですか?」という質問の正体
前回の記事を読んだ社長から、
よくこんな質問を受けます。
「じゃあ、税理士に任せるのは
やめたほうがいいんですか?」
この質問、
実はとても誠実です。
でも同時に、
少しだけズレています。
問題は、
「任せるか/任せないか」ではありません。
どこまでを、誰の責任で任せるか
ここが曖昧なことが、
社長を不安にさせているのです。
「任せる」という言葉が、あまりにも便利すぎる
「税理士に任せている」
この一言で、
次のようなものが
すべて一括りにされています。
- 記帳
- 決算
- 税金
- 数字の意味
- 経営判断
でも、これらは
性質がまったく違う仕事です。
ここを分けずに
「全部任せる」と言ってしまうと、
混乱が始まります。
大原則:責任が伴うものは、任せられない
まず、
一番大事な原則から。
最終的な責任が社長にあるものは、
任せることはできない
これは精神論ではありません。
構造の話です。
- 税務署に説明するのは税理士
- でも、納税義務者は社長
- 銀行が評価するのは、会社と社長
つまり、
責任の所在は、最初から決まっている。
任せていいこと①:正確さが求められる「作業」
税理士に任せていい代表例は、
こちらです。
- 記帳代行
- 決算書の作成
- 税務申告
- 法令対応
これらは、
- 正確さ
- 最新の知識
- ミスの少なさ
が、何より重要。
ここは、
プロに任せるべき領域です。
社長が手を出して
消耗する必要はありません。
【ケース①】記帳を手放して、経営に集中した社長
ある社長は、
創業当初、すべて自分で記帳していました。
夜中までExcelと格闘し、
疲れ切った状態で翌日を迎える。
でもある時、
思い切って記帳を税理士に任せました。
結果どうなったか。
- 数字を「作る」時間が減り
- 数字を「考える」余裕が生まれた
これは、
正しい任せ方です。
任せてはいけないこと①:数字の「意味づけ」
一方で、
絶対に任せてはいけないものがあります。
それが、
数字の意味をどう捉えるか
です。
- この利益で安心していいのか
- この売上構成は健全なのか
- この数字は、次に何を示しているのか
ここは、
社長の仕事です。
税理士は
「説明」はしてくれます。
でも、
解釈と判断は、
代わりにできません。
数字は「正しいか」より「どう使うか」
税理士の数字は、
基本的に正しい。
でも社長が知りたいのは、
- 正しいかどうか
- 合っているかどうか
よりも、
それで、どうするのか?
です。
ここは、
任せられない領域です。
【ケース②】黒字なのに、攻められなかった社長
別の社長の話です。
決算は毎年黒字。
税理士からも
「問題ないですね」と言われる。
でも社長は、
- 投資に踏み切れない
- 人を増やす決断ができない
なぜか。
この黒字が、
攻めていい黒字なのか分からない
ここを税理士は、
判断してくれません。
任せてはいけないこと②:経営判断の「前提」
もう一つ、
任せてはいけないものがあります。
それは、
どんな前提で判断するか
です。
- 安定を優先するのか
- 成長を取りにいくのか
- リスクをどこまで許容するのか
これは、
社長の価値観そのもの。
誰かに委ねた瞬間、
経営はブレ始めます。
税理士が悪者になる構図の正体
ここで、
よくあるすれ違いが起きます。
- 社長「思ったよりお金が残らない」
- 税理士「数字上は問題ありません」
どちらも、
間違っていません。
ただ、
見ている役割が違うだけです。
任せすぎると、
このズレが不満に変わります。
「任せていい」と「一緒にやる」の境界線
実務上、
おすすめの切り分けはこれです。
- 作業・処理 → 任せる
- 意味・判断 → 一緒に考える
これだけで、
税理士との関係は
かなり健全になります。
管理会計は「任せないための武器」
ここで、
管理会計の位置づけが見えてきます。
管理会計は、
- 税理士の代わりでも
- 監視ツールでもありません
社長が、
任せない部分を自分で持つための道具です。
「全部分からなくてもいい」という安心
最後に、
一つ安心してほしいことがあります。
社長は、
- 会計の専門家になる必要はない
- 税理士と同じ知識はいらない
必要なのは、
判断に使える最低限の数字だけ。
それを持っていれば、
任せるべきところは、
胸を張って任せられます。
今日の一言
任せていいのは「作業」。
任せてはいけないのは「判断」。
その境界線を引けたとき、
社長は数字に振り回されなくなる。
