
――税理士に任せている、という幻想・第3回――
「分かりました」と言った瞬間、胸に残る違和感
税理士との打ち合わせが終わり、
社長が事務所を出たあと。
ふと、こんな感覚が残ったことはないでしょうか。
なんとなく、スッキリしない
ちゃんと分かった気がしない
でも、もう一度聞くのも変だ
口では「分かりました」と言った。
相手も、話を終えた。
それなのに、
理解した実感だけが残っていない。
この違和感こそが、
今回のテーマの入口です。
分かったフリは、怠慢でも嘘でもない
最初に、はっきり言っておきます。
社長が
「分かったフリ」をしてしまうのは、
- 怠慢だからでも
- 誠実さに欠けるからでも
- 勉強不足だからでも
ありません。
むしろ、
多くの場合、とても真面目で責任感が強い社長ほど、そうなります。
社長という立場は「分からない」と言いにくい
社長になると、
立場が一気に変わります。
- 判断する側
- 責任を取る側
- 指示を出す側
この立場に立った瞬間、
無意識にこう思い始めます。
自分が分からないと言ったら、
会社が不安定に見えるのではないか
この思い込みが、
「分からない」を封じます。
数字の話は「無知」が一瞬で露呈する世界
数字の世界は、とても残酷です。
- 用語が専門的
- 正誤がはっきりしている
- 話のスピードが速い
分からない部分で
一度つまずくと、
その後の話がすべて霧に包まれる。
でも、
その場で止めて聞き返すのは、
とても勇気がいる。
【ケース①】「はい、はい」と頷き続けた30分
ある社長の話です。
税理士との月次ミーティングで、
こんな説明を受けました。
- 今月の利益率
- 減価償却の影響
- 一時的な税額調整
途中から、
社長は分からなくなりました。
でも、
- 話は止まらない
- 専門用語が続く
- 今さら聞けない空気
結果、
30分間、ただ頷き続ける。
打ち合わせ後、
社長はこう言いました。
何が大事だったのか、
正直よく分からなかった
それでも、
「分かりませんでした」と
言えなかった自分を責めていました。
「今さら聞けない」は、社長を最も孤立させる言葉
分かったフリをしてしまう理由の多くは、
この一言に集約されます。
今さら聞けない
- 何年も付き合っている
- 毎年説明を受けている
- 同じ話をしている気がする
でも、
理解できていなかった時間は、帳消しになりません。
むしろ、
聞けなかった年数が増えるほど、
聞きづらくなる。
これが、
分かったフリの連鎖を生みます。
税理士は「分からないこと」に気づきにくい
ここで、
税理士側の事情も見てみましょう。
税理士は、
- 数字の専門家
- 説明する立場
- 業務として進める立場
相手が頷いていれば、
基本的には「伝わった」と判断します。
社長が
分かったフリをしているとは、
なかなか気づけません。
これは、
誰が悪いという話ではありません。
分かったフリが生む、静かな副作用
分かったフリを続けると、
何が起きるでしょうか。
- 数字が自分の言葉にならない
- 判断に自信が持てない
- 税理士任せが加速する
そして、
こんな言葉が口をついて出ます。
「税理士に任せているので」
これは、
安心の言葉ではなく、
思考停止の合図です。
【ケース②】黒字なのに、ずっと不安な社長
別の社長は、
毎年黒字を出していました。
税理士からも
「順調ですね」と言われる。
それなのに、
ずっと不安が消えない。
理由を聞くと、こうでした。
この黒字が、
何を意味しているのか、
自分の言葉で説明できない
分かったフリを続けた結果、
数字が他人の所有物になっていたのです。
分かったフリの正体は「関係性の問題」
ここで、
大事な視点をお伝えします。
分かったフリは、
理解力の問題ではありません。
関係性の問題です。
- 聞いていいと思えない
- 止めていいと思えない
- 学び直していいと思えない
この空気が、
社長を黙らせます。
管理会計は「分からないと言っていい場所」を作る
だから、
管理会計の虎の穴では、
最初にこう伝えます。
分からなくていい
間違えていい
途中で止めていい
ここで扱う数字は、
- 税務署に出すものではない
- 銀行に提出するものでもない
社長が考えるための数字です。
分かったフリをやめた瞬間、数字は味方になる
実際、
管理会計に取り組み始めた社長からは、
こんな声をよく聞きます。
「こんな初歩的なこと、
聞いてよかったんだ」
「分からないって言っても、
何も壊れなかった」
分かったフリをやめた瞬間、
数字は一気に近づきます。
「理解していない」は、恥ではない
最後に、
はっきり伝えたいことがあります。
理解していない状態は、
- 無能の証明でも
- 経営者失格の証でも
- 努力不足の結果でも
ありません。
ただ、環境と関係性が合っていなかっただけです。
今日の一言
分かったフリをしてしまうのは、
弱さではない。
「社長という立場」が生んだ、
もっとも人間的な防御反応だ。
