
――社長の仕事は、決めること・第5回――
「判断疲れ」の正体は、問いの不十分さにある
社長の仕事の中で、最も疲れるものは何でしょうか。
多くの方は「決断」だと答えます。
毎日、大小さまざまな意思決定を迫られる中で、
- 新しい商品の投入
- 営業先の取捨選択
- 社員の人事
これらを直感だけで決めようとすると、精神的に重くなります。
そして、多くの場合、判断の疲れは 情報不足 や 問いが不十分 であることから来ています。
つまり、
判断の質は「問いの立て方」でほぼ決まる
のです。
考えてみてください。
同じ状況でも、
- 「この商品、売れるかな?」
- 「この商品は、利益率・競合・顧客層を考えて、売るべきかどうか?」
どちらの問いの方が、明確な答えに近づきやすいでしょうか。
もちろん後者です。
「問い」が決める、思考の軸
経営判断の場で「問い」を正しく立てるとは、
単に疑問文を作ることではありません。
- 目的を明確にする
- 成功/失敗の基準を設定する
- 比較できる形に落とす
この3つを意識するだけで、判断のブレは大きく減ります。
具体例:営業部の新規施策
ある会社で、営業部に新しい施策を任せました。
最初の問い:「この施策、やった方がいいですか?」
→ メンバーは迷い、提案は抽象的
→ 社長も直感で判断するしかない
→ 失敗のリスクが高い
問いを整理した後:「この施策は、今期の既存顧客売上を前年比+10%にするために必要か?必要経費は○万円、効果は○%の確度で見込めるか?」
→ 判断基準が数字と目的に紐づく
→ 社長もメンバーも納得感を持って決定
→ 施策の評価も明確に
このように、問いの質が判断の精度を決めます。
抽象的な問いは、無限ループの原因
社長がよく陥る罠として、抽象的な問いがあります。
- 「もっと売上上げたいけど、どうしよう?」
- 「この社員をどう活かす?」
答えは無限に広がり、優先順位がつけられません。
結果、社長は頭を抱え、判断疲れが蓄積します。
ケーススタディ:飲食店の新メニュー
ある飲食店の社長は、毎月のように新メニューを考えていました。
抽象的な問い:「お客さん喜ぶかな?」
→ メニューがどんどん増え、厨房は混乱
→ 原価管理もできず、利益率が下がる
→ 結局、売上アップにもつながらない
問いを整理:「新メニューで、客単価を+15%にするために、必要原価率は30%以内で出せるか?」
→ 選択肢が絞られ、数字と目的に基づいた判断が可能に
→ 結果、少数精鋭メニューで客単価アップ成功
ここでわかるのは、問いの抽象度が高いほど、判断の精度は落ちる、ということです。
問いを「比較可能な形」に変える
良い問いは、必ず比較できる形に落とすことができます。
- 数字で比較
- 過去実績との比較
- 成功・失敗の指標との比較
例:新規プロジェクトへの投資
抽象的な問い:「このプロジェクト、やるべき?」
→ 迷う
比較可能に変える:「このプロジェクトは、投資額○円、回収期間○か月、利益見込み○円で、既存プロジェクトと比較してROIが高いか?」
→ 判断しやすくなる
→ 社長も意思決定が早くなる
→ チーム内でも合意形成しやすい
これにより、「やる/やらない」の判断が、直感ではなく 合理的に納得できるもの になります。
問いの立て方を磨くと、数字との相性も良くなる
前回の記事で「感覚経営と数字経営は対立しない」とお伝えしました。
問いの立て方を改善すると、数字も自然に使いやすくなります。
- 「利益を上げたい」だけの抽象的目標
→ 数字をどう使うか迷う - 「この施策は、粗利率10%以上を確保できるか?」
→ 数字が判断の補助として機能
つまり、問いを明確にすると、感覚と数字の両方が力を発揮します。
問いの立て方は、社長自身の「チェックリスト」
社長は毎日、大小さまざまな判断を迫られます。
そこでおすすめなのは、問いの立て方を チェックリスト化 することです。
- 目的は何か?
- 何を達成すれば成功か?
- 失敗した場合のリスクは?
- 比較対象はあるか?
- 数字で確認できるか?
これを習慣化するだけで、判断疲れは大幅に減ります。
問いを改善すると、社内も活性化する
問いの精度が上がると、社長だけでなく社内全体も活性化します。
- 社員:「何を基準に決めればいいか」が明確になる
- 社長:「判断に迷う時間」が減る
- 組織:「誰が何をすべきか」が共有される
結果として、意思決定のスピードと精度が同時に向上します。
今日の一言
判断の質は、問いの質に比例する。
問いを明確にすれば、社長の意思決定は軽く、精度は高くなる。
