
――管理会計は、シンプルでいい・第3回――
「もう少し正確になってから決めましょう」の落とし穴
経営会議や月次ミーティングで、こんな言葉を聞いたことはありませんか?
「この数字、まだ確定じゃないですよね?」
「来月、締めてから改めて判断しましょう」
「もう少し精度が上がってからでいいのでは?」
一見、とても真面目で、慎重で、正しそうな姿勢です。
でも私は、この言葉を聞くたびに、心の中でこう思います。
あ、この会社、判断が遅くなるな
これは皮肉でも批判でもありません。
多くのスモールビジネスが、同じ罠にはまっているからです。
今回は、
「完璧な数字を追いかけるほど、なぜ経営が重くなるのか」
その理由を、管理会計の視点から紐解いていきます。
管理会計で本当に怖いのは「間違い」ではない
まず、大前提としてお伝えしたいことがあります。
管理会計において、
一番怖いのは“数字が少しズレること”ではありません。
一番怖いのは、
判断しないまま、時間が過ぎていくこと
です。
- 値上げすべきか悩んでいる間に、原価が上がる
- 人を増やすか迷っている間に、現場が疲弊する
- 投資を検討している間に、チャンスが過ぎる
これらはすべて、
**「数字が完璧になるのを待った結果」**起きることです。
なぜ社長は「完璧な数字」を求めてしまうのか?
では、なぜ多くの社長が
完璧な数字を求めてしまうのでしょうか。
理由は、大きく3つあります。
理由①:数字=正確であるべきもの、という刷り込み
会計と聞くと、
- 1円単位で合っていなければならない
- 税務署に出すもの
- 間違えると怒られる
そんなイメージが先に立ちます。
これは財務会計としては正解です。
でも、今あなたがやろうとしているのは
管理会計。
管理会計は、
「正しい数字」より
「使える数字」
が優先されます。
理由②:間違えた判断をしたくないという恐怖
社長は、最終的に決める立場です。
- 値上げして客が離れたらどうしよう
- 人を雇って失敗したらどうしよう
だからこそ、
「数字が完璧なら、失敗しないはず」
と考えてしまう。
でも、ここに大きな誤解があります。
理由③:数字が完璧でも、未来は分からない
どんなに数字を精緻にしても、
- 来月の受注
- 景気
- 人の動き
は、誰にも100%予測できません。
つまり、
完璧な数字 = 正しい未来予測
ではないのです。
ケーススタディ:判断が1年遅れた会社の話
ある小売業の会社。
社長はとても数字に真面目で、
- 商品別
- 店舗別
- 月別
で、かなり細かく数字を見ていました。
ある年、原価がじわじわ上がり始めます。
社長は気づいていました。
でも、こう考えました。
「まだ数字が確定しきっていない」
「もう数か月、様子を見よう」
結果どうなったか。
- 利益率は下がり続け
- 気づいたときには、利益がほぼ出ない構造に
値上げを決断したのは、
実際に苦しくなってから。
社長はこう振り返りました。
「数字は正確だったけど、
決めるのが遅かった」
これは、決して珍しい話ではありません。
管理会計は「判断を早めるため」にある
ここで、管理会計の本質に戻りましょう。
管理会計は、
- 結果を正確に説明する
ためのものではありません。 - 次の一手を早く決める
ためのものです。
だから必要なのは、
- 完璧な数字
ではなく - 方向性が分かる数字
です。
7割分かれば、判断には十分
私が社長によくお伝えする言葉があります。
経営判断に必要な数字の精度は、7割でいい
残りの3割は、
- 現場感覚
- 経験
- 勘
で補えばいい。
なぜなら、
判断は「正解か不正解か」ではなく
「修正できるかどうか」
だからです。
判断が早い会社は、数字をこう使っている
判断が早い会社には、共通点があります。
① 数字を「確定」ではなく「兆し」として見る
- 粗利率が下がり始めた
- 固定費が重くなってきた
この変化を捉えた時点で、動きます。
② 判断を「一発勝負」にしない
- 小さく値上げしてみる
- 一部の商品だけ変えてみる
試す→見る→修正する
この前提があるから、決断が早い。
③ 数字を見るタイミングが決まっている
- 毎月〇日
- 同じExcel
- 同じ順番
だから、
「数字を待つ」という発想がない。
「完璧な数字」が経営を止める瞬間
完璧を求めると、こんなことが起きます。
- 確定していないから、決めない
- 決めないから、何も変わらない
- 何も変わらないから、数字も変わらない
これは、
静かな悪循環です。
一方で、シンプルな管理会計は、
- 多少ズレていても
- 早く気づき
- 早く動ける
この循環を作ります。
管理会計は「勇気を数字で支える仕組み」
最後に、とても大事な視点を。
経営判断には、
必ず不安が伴います。
管理会計は、
不安を消すためのもの
ではありません。
不安があっても、前に進むためのもの
です。
完璧な数字を待つより、
動ける数字を持つ。
これが、
管理会計を「使えている社長」の共通点です。
今日の一言
管理会計は、正解を教えてくれる道具ではない。
決断を“早くしていい”と背中を押す道具である。
