②数字が分からなくなった瞬間は、いつだったのか


――「社長が数字を嫌いになった日」第2回――


「いつから分からなくなったのか?」と聞かれて、答えられない理由

社長にこう聞くと、多くの方が少し考えてから、こう言います。

「……正直、いつからか分からないんですよね」

学生時代に戻ったわけでもない。
起業した瞬間でもない。
失敗した記憶が、はっきりあるわけでもない。

でも確実に、
**「ある時期から、数字が分からなくなった感覚」**がある。

この「思い出せなさ」自体が、
実はとても重要なヒントです。


数字が分からなくなる瞬間は、試験のように分かりやすくは来ない

多くの社長は、
「決定的に数字が分からなくなった出来事」を探そうとします。

  • 大きな赤字を出したとき
  • 銀行に怒られたとき
  • 税務調査が入ったとき

でも実際には、
そんなドラマチックな瞬間ではありません。

数字が分からなくなる瞬間は、
もっと静かで、日常の中に紛れています。


最初のズレは、「忙しさ」の中で起きる

最初に起きる変化は、とてもシンプルです。

忙しくなった

これだけです。

  • 仕事が増える
  • 人が増える
  • 判断が増える

すると、社長の頭の中はこうなります。

「今は現場が最優先」
「数字は、後でまとめて見ればいい」

この時点では、
まだ数字は敵ではありません

ただ、
後回しにされただけです。


【ケース①】「数字は後で」が続いた社長

ある飲食店経営者の話です。

開業当初は、

  • 毎日の売上
  • 仕入れ額
  • 人件費

を、感覚レベルでしっかり把握していました。

ところが、店舗が増え、
現場を回るだけで精一杯になると、

  • 数字は月末にまとめて確認
  • 決算書は税理士から説明を受けるだけ
  • 細かい中身は「まあいいか」と流す

これが半年、1年と続いた頃、
社長はこう感じ始めます。

「数字を見ても、ピンとこない」

この時点で、
数字との距離が、少しだけ開きました。


決定的な瞬間①:数字が「他人の言葉」になる

次に訪れるのが、
数字が“自分の言葉”ではなくなる瞬間です。

  • 税理士が説明する
  • 銀行が評価する
  • 資料として提示される

でも、そこに
社長自身の言葉がない

「利益率が◯%で」
「前年差がどうで」

説明は聞いている。
でも、判断につながらない。

この瞬間、
数字は「使うもの」から
**「聞かされるもの」**に変わります。


決定的な瞬間②:「分からない」と言えなくなった日

ここで、もう一段階進みます。

社長は、こう思い始めます。

  • 今さら初歩的なことは聞けない
  • 何度も説明してもらっている気がする
  • 分からないと言うのは恥ずかしい

そして、こうなります。

分かったフリをする

これは、決して悪意ではありません。
責任ある立場の人ほど、そうなります。

でもこの瞬間、
数字は一気に遠い存在になります。


【ケース②】銀行面談で起きた「静かな断絶」

別の社長の話です。

銀行との面談で、
担当者からこう言われました。

「今回、キャッシュフローが少し弱くてですね」

社長は、うなずきました。
でも、内心ではこう思っています。

キャッシュフローって、
結局どれのことだっけ?

その場で聞き返すことはできず、
面談は無事に終了。

帰り道、
強烈なモヤモヤだけが残ったそうです。

この瞬間、
数字は完全に「怖いもの」になりました。


決定的な瞬間③:数字=評価・詰問だと感じたとき

さらに追い打ちをかけるのが、
数字が評価や詰問の道具として現れる場面です。

  • 「なぜこの数字になったんですか?」
  • 「前年より悪いですね」
  • 「説明できますか?」

この時、社長の頭の中はこうなります。

責められている
正解を答えなければならない

ここで数字は、
学ぶ対象ではなく、防御対象になります。


数字が分からなくなった正体は「積み重なった小さなズレ」

ここまでを整理すると、
数字が分からなくなった理由は、これです。

  • 忙しさで後回しにした
  • 他人の言葉として聞く時間が増えた
  • 分からないと言えなくなった
  • 数字が評価や責任と結びついた

つまり、
一気に分からなくなったのではありません。

小さなズレが、
少しずつ積み重なっただけです。


だから、思い出せない。それでいい

「いつから分からなくなったのか分からない」

これは、
記憶力が悪いからではありません。

徐々に起きた変化だから、思い出せないのです。

そしてそれは、
ほとんどの社長が通る道でもあります。


管理会計の虎の穴が「段階」を重視する理由

だからこの虎の穴では、

  • いきなり答えを出させない
  • いきなり判断させない
  • いきなり高度な話をしない

必ず、
ズレたところまで戻ることを大切にします。

数字は、
才能ではなく「位置」の問題です。

置いていかれたなら、
迎えに行けばいい。


今日の一言

数字が分からなくなった瞬間は、
一度きりの失敗ではない。
小さなズレを、放置した時間の結果だ。


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