
――数字の前に、社長の軸を作る・第8回――
「数字は問題ないんです。でも、何かおかしい」
社長から、こんな言葉を聞くことがあります。
「売上も利益も計画通りです」
「資金繰りも問題ありません」
「でも……なんか、しっくりこないんですよね」
数字は合っている。
会計上も、管理会計上も、特に異常はない。
それなのに、
社長の中にだけ、違和感が残る。
この感覚、実はとても健全です。
そして同時に、見逃すと危険なサインでもあります。
今回は、
なぜ「数字が合っているのに違和感が残る」のか?
その正体を、理念・ビジョンの視点からひも解いていきます。
違和感の正体は「数字の外側」にある
まず大切なことから。
違和感は、数字の計算ミスではない
- 売上が間違っているわけでもない
- 利益率がズレているわけでもない
- 資金繰り表がおかしいわけでもない
違和感の多くは、
数字では表現されていない部分
から生まれています。
数字は「結果」を表しますが、
違和感は「過程」や「意味」に対して生じるものです。
違和感①:理念と「勝ち方」がズレている
事例:順調に成長しているサービス業
売上:前年比120%
利益:しっかり確保
社員数:増加中
外から見れば、絶好調です。
しかし社長は、こう言いました。
「この伸び方、うちのやりたかった形だっけ?」
話を聞くと、
- 値引きで案件を取っている
- 無理な短納期が増えている
- 社員の疲弊が目立つ
理念では、
「お客様と長く付き合える仕事をする」
と掲げていた。
つまり、
“勝ってはいるが、勝ち方が違う”
このズレが、違和感の正体です。
違和感②:数字が「何を犠牲にしたか」を語らない
数字は、とても正直です。
しかし同時に、とても無口でもあります。
- 利益は増えた
- でも、誰が無理をした?
- 何を削った?
- 何を我慢した?
これらは、
P/LにもB/Sにも直接は載りません。
ケーススタディ:利益率改善の裏側
ある会社で、利益率が大幅に改善しました。
理由は、
- 教育コストの削減
- ベテラン社員の退職
- 外注の極端な見直し
短期的には「正解」。
でも社長は、
「3年後、これで大丈夫かな……」
と不安を感じていました。
この違和感は、
未来への影響が数字に出ていない
ことへの警告です。
違和感③:社長の「大事にしたいもの」が測定されていない
理念やビジョンは、
たいてい次のような言葉を含みます。
- 信頼
- 誇り
- 成長
- 持続性
- 人としての納得感
これらは、
簡単に数字になりません。
その結果どうなるか。
測定されていないものは、
経営判断の場から消える
数字上は合っている。
でも、社長の大事にしているものが
経営の画面に映っていない。
これが、モヤっと感の正体です。
違和感④:「社長の直感」が否定されている
管理会計が整ってくると、
社長自身がこう思い始めます。
「数字が正しいんだから、
この違和感は気のせいかな?」
ここが、一番危険です。
なぜなら、
その違和感こそが、
社長の理念・経験・価値観の集合体
だからです。
直感とは、
感情ではなく「蓄積された判断基準」。
それを無視し続けると、
- 判断が遅くなる
- 自信がなくなる
- 数字待ち経営になる
社長が社長でなくなる瞬間です。
違和感は「ズレの早期警報」
ここで視点を変えてみましょう。
違和感は、悪者ではない
むしろ、
理念と現実がズレ始めたことを知らせる
早期警報装置
です。
- 数字が崩れる前
- 組織が壊れる前
- ブランドが傷つく前
かなり手前で、
「おかしいよ」と教えてくれています。
違和感を放置すると起きること
違和感を無視し続けると、
いずれ次の段階に進みます。
- モヤっとする
- でも数字はいい
- 見て見ぬふりをする
- 判断がブレ始める
- 数字も悪化する
多くの経営トラブルは、
④ではなく①の時点で手を打てたものです。
違和感を言語化するための問い
では、どう扱えばいいのか。
おすすめなのは、
次の問いを自分に投げることです。
- この数字は、
「うちの理念的に誇れるか?」 - この成果は、
「社員に胸を張って説明できるか?」 - この判断を、
「5年後の自分はどう評価するか?」
これらは、
会計の問いではなく、経営の問いです。
違和感を管理会計に翻訳する
理想は、
違和感 → 言語化 → 指標化(または意図的に無視)
です。
例えば、
- 人の成長が心配 → 教育時間を見る
- 無理が増えている → 残業・案件密度を見る
- 顧客との関係が浅い → 継続率を見る
すべてを数字にする必要はありません。
「見ている」「気にしている」
それ自体が、経営のメッセージ
になります。
数字が合っているのに苦しい会社、楽な会社
最後に、対照的な二社を紹介します。
A社
- 数字は計画通り
- 社長は常に不安
- 判断が遅い
B社
- 数字は同じく計画通り
- 社長は納得感がある
- 判断が速い
違いは、
数字の裏に、理念が立っているか
それだけです。
今日の一言
数字が合っているのに残る違和感は、
社長の軸がまだ生きている証拠。
その感覚を、経営の味方にしよう。
