
――数字が苦手な社長ほど、経営に向いている・第1回――
「あの社長、数字は完璧なのに…」という違和感
中小企業の現場で、
よく聞く言葉があります。
「頭もいいし、数字も強い。
なのに、なぜか会社が伸びないんですよね」
一方で、
こんな社長もいます。
「数字は正直、苦手です」
「決算書は、今も得意とは言えません」
それなのに、
- 社員が定着している
- お客さんが増えている
- 利益がじわじわ残っている
今日は、この一見すると矛盾した現象から話を始めます。
数字が得意=経営がうまい、という思い込み
まず、はっきりさせておきましょう。
数字が得意なこと自体は、
間違いなく強みです。
- 計算が早い
- 財務諸表が読める
- 数値分析ができる
どれも大切です。
ただし、
それがそのまま
経営の成功に直結するかというと、
話は別になります。
なぜなら、
経営は「数字のテスト」ではないからです。
経営は、正解が一つではない世界
学校のテストでは、
- 正解がある
- 間違いがある
- できる人ほど評価される
でも、経営は違います。
- 正解は後からしか分からない
- 同じ判断でも結果は変わる
- 間違いが、次の成功を生むこともある
数字が得意な人ほど、
この「曖昧さ」に強いストレスを感じます。
【ケース①】完璧な計画を立てて、動けなくなった社長
ある社長は、
元・大手企業の経理出身。
- 事業計画は精緻
- 数字は一切ブレない
- 想定リスクも完璧
でも、
なかなか行動に移せません。
理由はシンプルです。
「数字が、まだ確定しないから」
市場調査、シミュレーション、
Excelはどんどん精密になります。
しかしその間に、
チャンスは静かに通り過ぎていきました。
数字が得意な人ほど「外れたくない」
数字に強い人は、
- 正解を出したい
- 失点したくない
- 間違いを避けたい
この意識が、
無意識に強くなります。
でも経営は、
- 外す前提
- 誤算込み
- 修正しながら進む
世界です。
ここに、
相性のズレが生まれます。
数字が得意な社長が陥りやすい3つの罠
① 数字が合わないと「止まる」
想定と違う数字が出ると、
「なぜこうなった?」
「計算が合わない」
原因分析に時間をかけすぎて、
次の一手が遅れます。
② 数字で説明できないものを軽視する
- 勘
- 空気感
- 現場の違和感
これらは、
すぐに数値化できません。
結果として、
「数字で証明できないから却下」
となりがちです。
③ 自分より数字が弱い人を信用できない
社員や取引先の、
「なんとなく、こう思うんです」
という言葉を、
軽く見てしまう。
でも、
現場の感覚は
数字より先に異変を察知します。
【ケース②】数字は正しかった。でも、会社は苦しくなった
別の社長は、
利益率を徹底的に管理していました。
- 利益が出ない商品は即カット
- 人件費は数値で判断
- 無駄は一切削減
短期的には、
数字は改善。
でも数年後、
- 主力商品が育たない
- 社員が疲弊
- 新しい挑戦が消えた
数字は正しかった。
でも、
経営としては痩せていったのです。
経営には「数字で割り切れない投資」がある
経営には、
- 人を育てる
- 信頼を積み上げる
- 時間をかける
といった、
すぐに数字にならない投資が必ずあります。
数字が得意な人ほど、
「回収できる根拠は?」
「いつ黒字になる?」
と考えます。
これは合理的ですが、
行き過ぎると、
未来の芽を、
今の数字で刈り取る
ことになります。
一方、数字が苦手な社長は何が違うのか
では、
数字が苦手な社長はどうでしょうか。
多くの場合、
- 数字に自信がない
- だからこそ、人の話を聞く
- だからこそ、現場を見る
「分からない」ことを前提に、
経営しています。
これが、
大きな強みになります。
【ケース③】数字が苦手だから、相談できた社長
ある社長は、
決算書を見るたびに不安になるタイプ。
でも、
- 社員に状況を聞く
- 税理士に素直に質問する
- 分からない前提で意思決定する
結果として、
- 独断が減る
- 判断が柔らかくなる
- 修正が早い
会社は、
少しずつ安定していきました。
数字が苦手=無責任、ではない
ここで重要な誤解を解きます。
数字が苦手だからといって、
- 数字を見なくていい
- 丸投げしていい
わけではありません。
むしろ逆です。
数字が苦手な社長ほど、
「分かる形」に
数字を翻訳する必要がある
この姿勢こそが、
経営に向いています。
経営に必要なのは「計算力」ではなく「解釈力」
経営で本当に必要なのは、
- 正確に計算する力
ではなく - 数字をどう受け取るか
です。
- この数字は、何を示しているのか
- 何を変えれば、どう動くのか
- 失敗したら、次はどうするか
これは、
暗算が得意かどうかとは
ほとんど関係ありません。
数字が得意な人ほど、数字に縛られる
皮肉な話ですが、
数字が得意な人ほど、
数字から自由になれません。
一方で、
数字が苦手な人は、
- 必要な部分だけ使う
- 数字を道具として扱う
- 振り回されにくい
この差が、
経営の結果に現れます。
「数字が苦手」は、経営のスタートライン
数字が苦手だと気づいている社長は、
- 学ぶ余地がある
- 伸びしろがある
- 思考を柔軟にできる
これは、
経営において
非常に有利なポジションです。
今日の一言
数字が得意なことより、
数字をどう使うか。
そこに、
経営の向き・不向きが表れる。
