
― 数字が“ある”会社と、数字が“使われている”会社の決定的な違い ―
「数字はちゃんと見ているんですけどね…」
経営者の方と話していると、非常によく聞く言葉があります。
「試算表は毎月見ています」
「売上も利益も把握しています」
「数字は一応、頭に入っているつもりです」
それでも、こんな悩みが同時に出てきます。
- 判断に迷う
- 決断に自信が持てない
- 後から「本当にこれで良かったのか?」と不安になる
数字はある。
見てもいる。
それなのに、なぜ判断できないのか。
今回は、この“よくあるのに正体が分かりにくい違和感”を、丁寧に解きほぐしていきます。
数字が見られている会社ほど、判断が遅くなる不思議
まず前提として、
「数字を見ていない会社」より
「数字を見ている会社」の方が、健全です。
にもかかわらず、現実にはこういう現象が起きます。
数字を見始めた途端、判断が重くなる
これは珍しい話ではありません。
- 前より慎重になりすぎる
- あれもこれも気になって決められない
- 「もう少し様子を見よう」が増える
一体、何が起きているのでしょうか。
ケース①:試算表を見てフリーズする社長
あるサービス業の社長は、
毎月、税理士から送られてくる試算表を真面目に見ていました。
売上
粗利
人件費
利益
すべて把握している。
それでも、こんな状態でした。
- 値上げをするべきか迷う
- 人を増やす判断ができない
- 投資に踏み切れない
本人曰く、
数字を見れば見るほど、怖くなる
これは決して珍しい話ではありません。
問題は「数字の量」ではない
多くの人が、ここで勘違いをします。
「数字が足りないから判断できないんだ」
「もっと細かく分析しないといけない」
しかし、現実は逆です。
判断できない会社ほど、数字が多い。
- 月次試算表
- 前年比
- 前月比
- 部門別
- 科目別
情報は揃っている。
それでも判断できない理由は、
数字が“判断に変換されていない”からです。
数字は「情報」であって「答え」ではない
ここが、とても重要なポイントです。
数字そのものは、
ただの結果の記録です。
- 売上がいくら
- 利益がいくら
- コストがいくら
それ自体は、
「良い」「悪い」を語ってくれません。
判断するためには、必ずこれが必要になります。
基準
基準がないと、数字はただの感想大会になる
基準がない状態で数字を見ると、どうなるか。
- 「思ったより少ない気がする」
- 「まあ、こんなもんか」
- 「悪くはないけど、良くもない」
これらはすべて、感想です。
感想がいくら増えても、
判断にはつながりません。
ケース②:売上1,000万円は多いのか、少ないのか?
例えば、月商1,000万円。
これを聞いて、どう感じるでしょうか。
- すごい
- 普通
- 少ない
答えは、会社によって全部違う。
- 利益率が10%なら
- 人数が何人で
- 将来どこを目指しているか
によって、評価は真逆になります。
つまり、
数字は、単体では判断できない
ということです。
「比較」だけでは判断は生まれない
次によくあるのが、比較依存です。
- 前年比
- 前月比
- 予算比
もちろん、これらは重要です。
ただし、比較だけをしていると、
こんな状態に陥ります。
- 増えたからOK?
- 減ったからNG?
増えていても、
「それでいいのか」は別問題。
減っていても、
「許容範囲なのか」は別問題。
ここでも必要なのは、やはり基準です。
判断できる会社は「問い」が決まっている
判断できる会社は、
数字を見る前に、問いが決まっています。
例えば、
- この数字は、何を確認するためのものか
- どのラインを超えたら、動くのか
- 超えなかったら、どうするのか
問いがあるから、
数字が“意味”を持ちます。
ケース③:数字が「信号」になっている会社
ある小売業では、
毎月見る数字はごくわずかでした。
- 売上
- 粗利率
- 在庫回転
そして、それぞれにルールがありました。
- 粗利率が○%を下回ったら価格を見直す
- 在庫回転が落ちたら仕入れを止める
数字は、
判断を促す信号として使われていたのです。
だから、迷わない。
数字が怖くなる正体
数字を見るのが怖くなる理由は、
数字そのものではありません。
- 見た後、どうすればいいか分からない
- 間違った判断をしたくない
- 正解が分からない
つまり、
判断の責任を数字に押し付けようとしている
状態です。
数字は責任を取ってくれません。
取るのは、常に社長です。
数字は「免罪符」にも「武器」にもなる
数字を、
- 「だから仕方ない」
- 「数字が悪いから無理」
という免罪符に使う会社は、
判断が止まります。
一方で、
- 「だから、こうする」
- 「ここまでは許す」
という武器に使う会社は、
判断が加速します。
違いを生むのは、
基準と覚悟です。
判断できないのは、社長の能力不足ではない
ここまで読んで、
「自分は数字に弱いのかな…」
と思った方もいるかもしれません。
でも、それは違います。
判断できない理由は、
数字の使い方が設計されていないだけ
です。
これは、才能の問題ではなく、
構造の問題です。
次回予告:判断を助ける「基準」の正体
次回は、
- 何を基準にOK/NGを決めるのか
- その基準はどう作るのか
について、さらに踏み込んでいきます。
数字が判断できない状態から、
数字で迷わなくなる状態へ。
その境目を、一緒に見ていきましょう。
今日の一言
数字は答えを出してくれない。
答えを出すための“基準”があって、
初めて武器になる。
数字を見る時間を、
判断できない時間にしないために。
