
――数字の前に、社長の軸を作る・第6回――
「数字は客観的」…本当にそうでしょうか?
経営の現場で、よく聞く言葉があります。
「数字は嘘をつかない」
「感情論ではなく、数字で判断しよう」
たしかに、数字は事実を表します。
しかし、ここで一つ、とても重要な視点が抜け落ちがちです。
“どの数字を見るか”は、誰かが選んでいる
そして、その「誰か」とは、ほぼ例外なく社長です。
今回は、
理念が、どの数字を重視するかをどう決めているのか
について掘り下げていきます。
数字が同じでも、判断が真逆になる理由
まず、こんなケースを考えてみてください。
- 売上:前年比120%
- 利益率:前年比▲3%
- 残業時間:増加
この数字を見て、
- 「成長しているからOK」と言う社長
- 「このやり方はおかしい」と言う社長
が、実際に存在します。
なぜ、同じ数字を見て、真逆の判断になるのか。
理由はシンプルです。
重視している数字が違うから
そして、その優先順位を決めているのが、
社長の理念です。
理念は「見る数字のフィルター」である
理念というと、
「きれいな言葉」「精神論」と思われがちですが、
実務的に言い換えると、こうなります。
理念=数字を見るときのフィルター
つまり、
- 何を成果と呼ぶのか
- 何を異常と捉えるのか
- どの数字を犠牲にしても守るものは何か
これを無意識に決めています。
ケース①:売上重視の理念が選ぶ数字
ある会社の理念は、こうでした。
「とにかく事業を大きくし、業界に存在感を示す」
この理念の会社では、
自然と次の数字が重視されます。
- 売上高
- 市場シェア
- 顧客数
一方で、
- 利益率
- 一人当たり生産性
- キャッシュフロー
は、後回しになりがちです。
良い・悪いの話ではありません。
理念に忠実な数字選択をしているだけです。
問題になるのは、
「売上重視の理念なのに、
利益率だけを見て自分を責めている」
こういう理念と数字の不一致です。
ケース②:品質重視の理念が選ぶ数字
別の会社の理念は、こうでした。
「長く信頼される仕事を、誠実に続ける」
この会社で社長が真っ先に見る数字は、
- クレーム件数
- リピート率
- 原価率の変動
売上が多少落ちても、
「品質が守れているならOK」
という判断をします。
この社長が、
売上前年比だけを突き付けられると、
強い違和感を覚えます。
なぜなら、
**理念が、その数字を“重要だと思っていない”**からです。
「全部大事」は、実は何も決めていない
よくあるのが、このパターンです。
- 売上も大事
- 利益も大事
- 社員満足も大事
- キャッシュも大事
もちろん、間違ってはいません。
しかし、経営判断の現場では、
必ずトレードオフが発生します。
- 利益を取るか、成長を取るか
- 余裕を取るか、攻めるか
- 短期数字か、長期信頼か
このときに、
どの数字を守るかを決めるのが、理念
です。
理念が曖昧な会社で起きる「数字迷子」
理念が言語化されていない会社では、
こんな現象が起きます。
- 月次会議で、毎回見る数字が違う
- 前月と評価基準が変わる
- 社長の機嫌で判断が揺れる
社員からすると、
「結局、何を達成すれば評価されるのか分からない」
状態になります。
これは、
管理会計の問題ではなく、理念の問題です。
管理会計は「理念を数字に翻訳する作業」
ここで、管理会計の本質が見えてきます。
管理会計とは、
理念 → 重視する数字 → 判断
この流れを、
毎月・毎期、確認する仕組みです。
理念がない状態で管理会計を導入すると、
- 数字は増える
- 資料は分厚くなる
- 判断は楽にならない
という残念な結果になりがちです。
一歩進んだ視点:見ない数字を決める
実務的におすすめしたいのが、
「あえて見ない数字」を決める
ことです。
例えば、
- 短期利益を追わない理念なら
→ 月次利益に一喜一憂しない - 人材育成重視なら
→ 即効性KPIを最優先しない
これは、
**理念に基づいた“数字の取捨選択”**です。
ケース③:理念が数字をシンプルにした会社
あるITサービス会社では、
理念:「小規模事業者が、安心して経営できる世界を作る」
この理念から、社長は数字を3つに絞りました。
- 顧客継続率
- 月次キャッシュ残高
- 問い合わせ対応時間
売上や利益は見ていますが、
判断の主役にはしていません。
結果として、
- 無理な拡大をしなくなった
- 顧客満足度が上がった
- キャッシュ不安が減った
「数字を減らしたのに、経営は楽になった」
典型例です。
数字に振り回されない社長の共通点
数字に強い社長ほど、
実はこう言います。
「全部は見ない」
「見る数字は決まっている」
これは、
理念という“軸”があるからできることです。
今日の一言
理念は、どの数字を「成果」と呼ぶかを決めている。
数字を見る前に、社長の軸を決めよう。
