
――数字の前に、社長の軸を作る・第5回――
「結局、何を大事にする会社なんでしたっけ?」
社長との打ち合わせで、こんな場面に何度も立ち会ってきました。
- 理念は語れる
- ビジョンも、なんとなくある
- 方針も、その都度考えている
…はずなのに、いざ経営判断の場になると、
「これって、うちの方向性として合ってる?」
「社員にどう説明すればいい?」
「数字的にはOKだけど、何かモヤっとする」
こうした違和感が必ず出てきます。
原因は、とてもシンプルです。
理念・ビジョン・方針が、社長の頭の中でバラバラに存在している
今回は、この3つを
「一枚で整理する意味」と、その実践方法についてお話しします。
なぜ「一枚」にする必要があるのか
「理念は理念、ビジョンはビジョン、方針は方針。
別々に考えればいいのでは?」
そう思われるかもしれません。
しかし、実務の現場ではこうなります。
- 理念:会社案内やHPに書いてある
- ビジョン:年始の挨拶で一度話した
- 方針:会議ごとに微妙に変わる
つまり、
“存在はしているが、使われていない”
状態です。
一枚にまとめる最大の目的は、
**「考えるため」ではなく「使うため」**です。
理念・ビジョン・方針の役割を再確認しよう
まず、役割を整理しましょう。
理念:ブレない「価値観の軸」
- 何を大事にする会社なのか
- 何を優先し、何を捨てるのか
判断に迷ったときの、最後の拠り所です。
ビジョン:目指す「未来の姿」
- 将来、どんな会社になっていたいか
- 社員や顧客から、どう見られたいか
理念を土台に描く、未来の風景です。
方針:今期・今の「行動指針」
- 今年、どこに力を入れるのか
- 何をやって、何をやらないのか
理念とビジョンを、現実に落とすための翻訳です。
混乱が起きる会社の典型パターン
ここで、よくある失敗例を見てみましょう。
ケース:全部あるのに、機能していない会社
- 理念:「お客様第一」
- ビジョン:「業界No.1を目指す」
- 方針:「とにかく売上拡大」
一見、問題なさそうに見えます。
しかし現場では、
- 無理な受注が増える
- クレームが増加
- 社員が疲弊
なぜか。
3つが、つながっていないから。
- なぜNo.1なのか?
- No.1とは、規模なのか、質なのか?
- 売上拡大は、そのビジョンに合っているのか?
ここが整理されていないと、
方針はすぐに「場当たり」になります。
「一枚化」の最大の効用:説明が圧倒的に楽になる
理念・ビジョン・方針を一枚にすると、
社長の変化がはっきり現れます。
- 社員への説明が短くなる
- 同じ話を何度もしなくて済む
- 判断理由を言語化できる
特に大きいのが、
「なぜこの方針なのか」を、自然に説明できる
ようになることです。
一枚で整理する基本フォーマット
ここでは、シンプルで実務に使える形を紹介します。
上段:理念(Why)
- この会社は、何のために存在するのか
- 何を一番大切にするのか
→ 変えないもの
中段:ビジョン(Where)
- 3〜5年後、どうなっていたいか
- 社会・顧客・社員からどう見られたいか
→ 向かう先
下段:方針(How / Now)
- 今期、最優先でやること
- あえてやらないこと
→ 今やること
この縦の流れが、
一本のストーリーとしてつながっているか
が重要です。
ケーススタディ:一枚にしただけで判断が変わった会社
ある製造業の社長の例です。
整理前
- 理念:「技術で社会に貢献」
- ビジョン:「売上を倍にしたい」
- 方針:「新規顧客を増やす」
これを一枚に整理する過程で、こんな対話がありました。
「売上倍は、なぜ必要ですか?」
「…正直、数字目標として置いていただけで」
議論の結果、ビジョンはこう変わりました。
「高い技術力で、難しい仕事を任される会社になる」
すると、方針も変わります。
- 無理な新規開拓 → やらない
- 既存顧客の深掘り → 最優先
結果、売上は“自然に”伸び、
利益率も改善しました。
一枚にしたことで、無理な選択肢が消えたのです。
管理会計との接続点が、ここで生まれる
ここで重要なのが、
管理会計との関係です。
理念・ビジョン・方針が一枚になると、
- どの数字を見るべきか
- どのKPIが重要か
- 何を改善すべきか
が、自然に決まります。
管理会計は、
方針が数字で実行されているかを確認する道具。
一枚がないと、
数字は「良い・悪い」だけの評価で終わります。
完璧を目指さない。それが続くコツ
最後に、とても大事なことを。
この一枚は、
- 完璧である必要はありません
- 言葉が洗練されていなくていい
- 途中で変わってもいい
大切なのは、
社長が、自分の言葉で説明できること
そして、
判断に使われていること
です。
今日の一言
理念は軸、ビジョンは向かう先、方針は今の一歩。
この3つが一枚につながった瞬間、経営判断は迷わなくなる。
