
――税理士に任せている、という幻想・第4回――
「そこは税理士に相談します」という一言の危うさ
社長と話をしていると、
こんな言葉をよく耳にします。
「それは税理士に相談してから決めます」
「経営的にどうか、税理士の意見を聞いてみます」
一見すると、
とても慎重で、真面目な姿勢に見えます。
でも、この言葉の裏側には、
少しだけ危うい前提が隠れています。
税理士が、
経営の正解を知っているのではないか
今日は、この前提を
一度、丁寧にほどいていきます。
まず大前提:税理士は「経営者」ではない
当たり前のことから確認します。
税理士は、
- 税務の専門家
- 会計のプロ
- 法令を守るスペシャリスト
ですが、
- 社長ではない
- 最終責任者ではない
- リスクを取る立場ではない
つまり、
経営の当事者ではありません。
ここを曖昧にしたまま関係を築くと、
必ずどこかでズレが生まれます。
税理士が見ているのは「過去」、社長が向き合うのは「未来」
税理士の仕事の多くは、
- 過去の取引を整理する
- すでに起きた事実を数字にする
- 結果としての利益や税額を確定させる
いわば、
バックミラーを正確に映す仕事です。
一方、社長の仕事は、
- これからどうするか
- どこに向かうか
- どのリスクを取るか
フロントガラスを見る仕事です。
この視点の違いを無視して、
「経営判断」を委ねようとすると、
無理が生じます。
【ケース①】設備投資を「税理士判断」に任せた社長
ある社長が、
設備投資を検討していました。
金額は大きく、
社長は不安になり、税理士に相談します。
「この設備、入れても大丈夫でしょうか?」
税理士の答えは、こうでした。
「今期は利益が出ているので、
税務的には問題ありませんよ」
社長は安心して、
投資を決断。
しかし数か月後、
資金繰りが苦しくなります。
なぜか。
税理士の判断は
税務的に正しい。
でも、
- キャッシュの余力
- 回収スピード
- 事業全体のバランス
ここまでは、
判断の対象外だったからです。
税理士は「止める理由」は教えてくれる
誤解してほしくないのですが、
税理士の存在は非常に重要です。
特に、
- 危険なこと
- やってはいけないこと
- 法的・税務的にアウトなこと
これらを
止めてくれる存在として、
これ以上心強い人はいません。
ただし、
税理士が得意なのは、
「なぜダメか」を説明すること
であって、
「どう攻めるか」を決めること
ではありません。
経営判断には「数字以外」が必ず絡む
経営の判断は、
数字だけで決まりません。
- 社長の覚悟
- 社員への影響
- 市場の空気
- タイミング
これらは、
決算書には載りません。
税理士は、
これらを背負う立場にいない。
だからこそ、
経営の代わりはできないのです。
【ケース②】「税理士がOKと言ったのに…」の正体
別の社長は、
後悔を込めてこう言いました。
「税理士は大丈夫って言ったんです」
よくよく話を聞くと、
- 税務上はOK
- 会計上も処理できる
- でも、経営的には苦しかった
というケースでした。
ここで重要なのは、
税理士は嘘をついていないということ。
ただ、
答えていない質問が違っただけです。
「経営の相談」をしているつもりで、実は違う質問をしている
多くの社長は、
こう質問しています。
「この投資、問題ありますか?」
税理士は、
こう解釈します。
「税務・会計上、問題がありますか?」
でも社長が本当に聞きたいのは、
この判断で、
会社は前に進めるか?
ここがズレたまま、
「税理士に任せている」という感覚だけが残る。
これが、
幻想の正体です。
税理士が経営の代わりをし始めた瞬間、会社は弱くなる
もし仮に、
税理士が経営判断まで引き受け始めたら、
どうなるでしょうか。
- リスクを避ける判断が増える
- 無難な選択肢が続く
- 成長より安定が優先される
これは、
税理士が悪いのではありません。
役割として、そうなるのです。
社長の仕事は「決めること」から逃げられない
どれだけ優秀な専門家がいても、
- 最後に決めるのは社長
- 結果を引き受けるのも社長
この構造は変わりません。
だからこそ、
経営判断を誰かに預けた瞬間、
社長は一番大事な仕事を
手放してしまうことになります。
管理会計は「経営を取り戻すための道具」
ここで、
管理会計の立ち位置がはっきりします。
管理会計は、
- 税理士の代わりでも
- 正解を教える先生でもありません
社長が、自分で決めるための材料です。
- この判断は、どれくらいのリスクか
- 失敗したら、どこまで耐えられるか
- うまくいったら、何が変わるか
これを考えるための
思考の補助線です。
税理士と良い関係を築いている社長の共通点
実は、
税理士と最も良い関係を築いている社長ほど、
- 経営判断は自分でしている
- 数字の意味を自分の言葉で語れる
- 税理士に「確認」をしにいく
という特徴があります。
丸投げしていない。
でも、敵対もしていない。
役割を分けて、信頼している。
「任せる」と「頼る」は、似て非なるもの
最後に、
この違いを押さえておきましょう。
- 任せる:責任ごと預ける
- 頼る:判断材料をもらう
社長がやるべきなのは、
後者です。
今日の一言
税理士は、
経営の代わりはしてくれない。
だからこそ、
社長が数字を持つ意味がある。
