
――戦わない市場を決めるという戦略・第5回――
「うちは、どの市場の会社ですか?」
突然ですが、こんな質問をされたらどう答えますか?
「あなたの会社は、どの市場に立っていますか?」
多くの社長は、少し考えてからこう答えます。
- 「〇〇業界です」
- 「〇〇をやっている会社です」
- 「△△向けのサービスですね」
間違ってはいません。
でも、戦略としては不十分です。
なぜ“市場の話”になると、言葉が止まるのか
市場を聞かれると、
多くの社長が「業種」で答えます。
- 建設業
- IT業
- 飲食業
- コンサル業
でも、これらは分類であって、
戦場の説明ではありません。
業種は名札
市場は地図
なのです。
市場を言語化できない会社に起きること
市場が曖昧な会社では、こんな現象が起きます。
- 自社の強みが説明できない
- 価格の根拠が弱い
- 比較されやすい
- 問い合わせがバラつく
社長はこう感じます。
「なんとなく、いつも戦っている気がする」
それもそのはず。
どこで戦っているのか、
自分でも分かっていない
からです。
市場とは「人 × 課題 × 文脈」の組み合わせ
ここで、
市場の定義をシンプルにします。
市場とは、
特定の人が、
特定の課題を、
特定の前提条件で解決しようとしている場所
です。
つまり、
- 誰の
- どんな困りごとを
- どんな状況で
扱っているのか。
これを言語化することが、
市場を定義するということです。
ケーススタディ①:「市場が広すぎた会社」
あるITサービス会社。
自社紹介はこうでした。
「中小企業向けにIT支援を行っています」
一見、問題なさそうです。
でも、
- 業種も規模もバラバラ
- 課題もバラバラ
- 期待値もバラバラ
結果、
- 提案が毎回ゼロから
- 見積が安定しない
- 比較されやすい
市場が「広すぎる」状態でした。
市場が広い=チャンスが多い、ではない
よくある誤解があります。
「市場は広い方がいい」
これは大企業の論理です。
小さな会社にとって、
- 広い市場
- 多様なニーズ
は、
対応コストの増大
を意味します。
市場を狭めると、言葉が強くなる
先ほどの会社は、
市場をこう言い換えました。
「社員30名未満で、
経理・販売・在庫が属人化している
製造・卸売業向けの業務改善支援」
どうでしょうか。
- 人が浮かぶ
- 課題が浮かぶ
- 現場が想像できる
これが、
言語化された市場です。
市場は「事実」ではなく「選択」
ここで重要なポイント。
市場は、与えられるものではない
です。
- 今までそうだった
- 依頼が来たから
- できそうだから
ではなく、
自分たちが、どこに立つかを選ぶ
これが戦略です。
ケーススタディ②:市場を選び直した結果
ある士業系の会社。
以前は、
「どんな相談でも対応」
を掲げていました。
しかし、
- 単価は低い
- 工数は重い
- 感謝されにくい
そこで市場を定義し直しました。
「事業承継を控えた
中小企業オーナー向けの
経営整理支援」
すると、
- 問い合わせが減った
- でも質が上がった
- 単価が安定した
市場を選び直した結果です。
市場を言語化すると、マーケティングが変わる
市場が言葉になると、
- Webサイトの文章
- 営業トーク
- 事例の切り口
が、一気に揃います。
なぜなら、
誰に向けて話すかが決まる
から。
マーケティングは、
表現の工夫ではありません。
立ち位置の表明
です。
「ポジショニング」とは、場所を決めること
よく、
- 差別化
- ポジショニング
と言われますが、
その前に必要なのは、
自分は、どの場所に立つのか
を決めること。
場所が決まらなければ、
- 比べられ続ける
- 価格で競う
- 疲弊する
これは避けられません。
管理会計にも直結する話
市場が定まると、
- 仕事の型が揃う
- 原価構造が見える
- 利益のブレが減る
つまり、
数字が意味を持ち始める
のです。
逆に、市場が曖昧だと、
- 数字がバラつく
- 原因が分からない
- 改善できない
これは経営者にとって、
かなりのストレスです。
市場を言語化する3つの問い
最後に、
市場を言葉にするための問いを置いておきます。
- 誰が、どんな状態で困っているのか?
- その困りごとは、なぜ今まで解決されていないのか?
- なぜ、それを自社がやるのか?
この3つがつながったとき、
自社が立つ市場
が、はっきりします。
市場は「競争の外」にある
このシリーズのテーマに戻ります。
戦わない市場を決める
とは、
- 勝ち方を考える前に
- 比較される前に
自分の居場所を決める
ということ。
市場を言語化できた瞬間、
競争は、そもそも始まらなくなる
のです。
今日の一言
市場とは、
見つけるものではなく、
自分で決めて、言葉にするもの。
立ち位置が定まった会社は、
もう戦わなくていい。
