
― 顧客を絞るのは、本当に“怖いこと”なのか? ―
「お客さんを絞るなんて、そんな余裕はない」
事業構造転換の話をすると、かなり高い確率で返ってくる言葉があります。
それが、
「顧客を絞るなんて、今はとてもできません」
という反応です。
・仕事は断りたくない
・売上が減るのが怖い
・今のお客さんに申し訳ない
・そもそも選べる立場じゃない
この感覚、とても自然です。
むしろ、まっとうな経営者ほど、そう感じます。
ですがここで、少しだけ視点を変えてみてください。
今、本当に“すべての市場”と戦えていますか?
「誰でもお客さん」は、結局“誰のための仕事”なのか
多くの中小企業は、こう言います。
「うちは、基本的にどんなお客さんでも対応しますよ」
一見すると、
・柔軟
・間口が広い
・機会損失が少ない
良いこと尽くめに見えます。
ですが、実際の現場ではどうでしょう。
- やたらと手間がかかるお客さん
- 価格交渉ばかりしてくるお客さん
- 説明に時間がかかる仕事
- 毎回イレギュラー対応が発生する案件
これらが積み重なると、
「忙しいのに、利益が出ない」
という状態が生まれます。
ここで重要なのは、
問題は“お客さんの質”ではなく、“市場の選び方”にある
という点です。
市場を選んでいない会社は、市場に振り回される
少し厳しい言い方をします。
「市場を選んでいない」状態とは、
市場に選ばれるままに動いている
ということです。
・問い合わせが来たからやる
・昔からの付き合いだから断れない
・他社がやっているからやる
この積み重ねで事業が広がると、
社長の頭の中は、こんな状態になります。
- 仕事の種類が多すぎる
- 儲かる仕事が分からない
- 忙しさの原因が特定できない
つまり、
経営判断ができない構造
になってしまうのです。
「市場を絞る」=「顧客を切り捨てる」ではない
ここで、最大の誤解を解いておきましょう。
市場を絞る=顧客を切り捨てる
ではありません。
市場を決め直すとは、
- どこで勝ちに行くかを決める
- どこでは無理をしないかを決める
この優先順位を明確にする行為です。
今すぐすべてを断る必要はありません。
ですが、
「今後、どこに力を集中するか」
を決めない限り、構造は変わりません。
ケーススタディ|3つの市場に手を出して苦しくなった会社
ある会社は、次の3つの市場を同時に追っていました。
- 小規模・価格重視の顧客
- 中規模・スピード重視の顧客
- 専門性を求める高付加価値顧客
社長の感覚では、
「全部やれている」
つもりでした。
ですが、数字と業務を整理してみると、
- ①は忙しいがほぼ利益ゼロ
- ②はクレーム対応が多い
- ③は件数は少ないが利益率が高い
にもかかわらず、
時間の大半は①と②に取られていました。
ここで行ったのは、
③を“戦う市場”と明確に決める
という判断です。
すると、
- 仕事の説明がシンプルになる
- 価格交渉が減る
- 社長のストレスが減る
売上は一時的に落ちましたが、
利益と再現性は大きく改善しました。
戦える市場は「好き」や「得意」だけでは決まらない
市場選定というと、
- 自分が好きな分野
- 得意な仕事
- やりがいがある顧客
こうした軸で考えがちです。
もちろん、それも大切です。
ですが、それだけでは不十分です。
戦える市場かどうかは、
次の3つの視点で見る必要があります。
- 価値を理解してくれるか
- 継続的に対価を払ってくれるか
- 自社のリソースで再現できるか
この3つが揃っていない市場は、
どれだけ頑張っても、消耗戦になります。
「今のお客さん」を基準に考えない
もう一つ、重要なポイントがあります。
市場を決めるとき、
「今のお客さん」を基準にしてはいけません。
なぜなら、
今のお客さんは、
「これまでの構造の結果」
だからです。
これから作りたい構造に合った市場は、
今の顧客リストの中には
少数しか存在しないことも多い。
だからこそ、
- これから増やしたい顧客像
- 本来、価値を発揮できる相手
を基準に、市場を定義し直す必要があります。
市場選定は「勇気」ではなく「設計」
ここまで読んで、
「やっぱり怖い」と感じた方もいるでしょう。
ですが、はっきり言います。
市場選定は、勇気や根性の話ではありません。
・数字
・業務負荷
・再現性
これらを冷静に見て、
一番“戦いやすい場所”を選ぶだけです。
むしろ、
選ばないまま走り続ける方が、
よほどリスクが高い。
このSTEPを飛ばすと、後工程はすべて苦しくなる
事業構造転換の6ステップの中で、
このSTEP1は、すべての土台になります。
- 市場が決まらなければ、価値は定まらない
- 市場が曖昧だと、価格も決められない
- 市場が広すぎると、業務は必ず複雑化する
だからこそ、
ここで曖昧なまま進むと、
後のステップがすべて苦しくなります。
次回予告|「選ばれる理由」は後から作れる
次回は、
STEP2:提供価値を再定義する
を扱います。
「うちには強みがない」
「他社と違いが分からない」
そう感じている社長にこそ、
読んでほしい内容です。
今日の一言
市場を絞ることは、
可能性を狭めることではない。
勝てる場所を選ぶことだ。
ここが定まった瞬間から、
事業は“消耗戦”ではなくなります。
