
ー社長のための”事業構造転換”疑似体験 最終回ー
「設計したのに、動かない」社長が一番つまずく瞬間
ここまで読み進めてくださったあなたは、
すでに相当“経営の芯”に近いところまで来ています。
- 戦える市場を選び直し
- 提供価値を再定義し
- 収益構造を組み替え
- 業務と数字で「勝てる形」を検証した
――理屈も、設計も、腹落ちしている。
それなのに、いざ実行となると、足が止まる。
実はここが、
事業構造転換において最も失敗が多いポイントです。
理由はシンプルで、
STEP6は「正しさ」ではなく「現実」と向き合う工程だから。
この回では、
「どう動けば失敗しないのか?」
「何から始めれば、組織が混乱しないのか?」
を、疑似体験しながら一緒に進めていきます。
なぜ「正しい転換」が失敗するのか?
まず、よくある失敗パターンから見てみましょう。
失敗パターン①:一気に切り替えようとする
- サービス内容を全面刷新
- 価格体系を総入れ替え
- 顧客層をガラッと変更
頭の中では「もう決まったこと」でも、
現場や顧客にとってはある日突然の別世界です。
結果として起こるのは、
- 現場の混乱
- 既存顧客の離脱
- 社長自身の不安増幅
「こんなはずじゃなかった…」という声が、必ず出ます。
失敗パターン②:設計=完了だと思ってしまう
設計がきれいにできる社長ほど、陥りやすい罠があります。
「あとは現場が回せばいい」
しかし、事業構造転換は
“設計して終わり”のプロジェクトではありません。
- 実行 → ズレる
- ズレる → 修正する
- 修正 → 再実行
このループを回し続ける覚悟がないと、
転換は途中で止まります。
STEP6の本質は「切り替え」ではなく「移行」
ここで大事な視点を一つ。
事業構造転換は、スイッチではありません。
ON / OFF で切り替えるものではなく、
グラデーションで移行するものです。
このSTEP6のテーマは、
「新しい構造を、どう“現実に着地させるか”」。
キーワードは
👉 同時並行
👉 小さく試す
👉 戻れる余地を残す
です。
フェーズ①|まずは「試運転ゾーン」を作る
全社展開の前に、限定的に動かす
最初にやるべきことは、
新しい構造を“限定条件付き”で走らせること。
たとえば、
- 特定の顧客だけ
- 特定の商品・サービスだけ
- 特定の担当者・チームだけ
いわば「試運転ゾーン」です。
ケース:ある制作会社の例
デザイン会社A社は、
「価格競争から抜けるための構造転換」を設計しました。
しかし、いきなり全案件で切り替えるのは怖かった。
そこで、
- 既存顧客は従来通り
- 新規問い合わせだけ、新しい価格・提供形態で対応
という形で、2つの構造を並走させました。
結果、
- 新構造の方が利益率が高い
- 顧客満足度も下がらない
という手応えを数字で確認でき、
半年後に本格移行を決断できたのです。
フェーズ②|業務フローは「完璧」を目指さない
ここで、多くの社長がまた止まります。
「業務がまだ固まっていないので…」
しかし、断言します。
最初から完璧な業務フローは存在しません。
業務は「使いながら整える」もの
STEP5で検証した業務設計は、
あくまで仮説モデルです。
実際に動かすと、必ずこうなります。
- 思ったより時間がかかる
- 特定の工程が詰まる
- 想定外の作業が発生する
これは失敗ではなく、正常な反応です。
大事なのは、
- どこが詰まったか
- なぜ詰まったか
- 次にどう直すか
を、感情ではなく事実で見ること。
フェーズ③|数字は「評価」ではなく「会話」に使う
転換期に、数字の扱いを間違えると、
組織は一気に硬直します。
NG例:数字=詰める材料
- 「数字が合わないのはなぜ?」
- 「この利益率では意味がない」
こうした使い方をすると、
現場は守りに入るだけです。
OK例:数字=ズレを見つける道具
転換期の数字は、
「良い・悪い」を決めるためのものではありません。
- 設計と現実のズレを確認する
- 想定と違った理由を探る
- 次の一手を考える材料にする
数字は、
社長と現場が同じ地図を見るための共通言語です。
フェーズ④|「やらないこと」を明確にする
事業構造転換の実行期に、
地味だけど致命的なポイントがあります。
それが、
古い構造を、ずるずる残してしまうこと。
全部やろうとすると、全部中途半端になる
- 新しいサービスを育てながら
- 利益の薄い仕事も惰性で続け
- 社長の判断は増える一方
これでは、社長が先に限界を迎えます。
だからこそ、
- 今後はやらない仕事
- 伸ばさない顧客層
- 深追いしない売上
を、言語化しておくことが重要です。
これは冷たい判断ではなく、
会社を守るための経営判断です。
フェーズ⑤|社長の役割は「微調整装置」になること
転換期の社長に求められる役割は、
現場のヒーローではありません。
社長の仕事は「全部決める」ことではない
このフェーズでの社長の仕事は、
- 状況を見る
- ズレを感じ取る
- 判断基準を少し調整する
いわば、
事業全体の“微調整装置”です。
細かく口を出すのではなく、
- 判断の軸を示す
- 戻るラインを決める
- 進めるラインを決める
この3点を握っていれば、
組織は自走し始めます。
転換は「成功」ではなく「定着」させて初めて意味がある
最後に、大切な視点を一つ。
事業構造転換は、
「うまくいったかどうか」では終わりません。
- 新しい構造が
- 無理なく回り
- 社長が判断しやすくなり
- 利益が“自然に”残る
この状態が続いていることが、成功です。
今日の一言
事業構造転換とは、正しい答えを一気に実行することではない。
現実と対話しながら、少しずつ“勝てる形”に寄せていくプロセスである。
焦らず、止まらず、戻れる余地を持ちながら。
それが、失敗しない移行の進め方です。
